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次の日、作業は吐く息が白く煙る早朝から始まった。
「ほぇ~『ドローンでの調査』って聞いてたもんで、ちっこいヘリコプターみたいなのを想像してたけんども、随分とデカいもんですなぁ」
マイクロバスから引っ張り出される三角の機体を、ゲンタが興味深げに見つめる。
「小型ドローンでは航続距離が知れてますから」
寒さに震えながら、アオイがタクミの手を借りて大型ジェットドローンのセッティングを続けている。
「タクミ君の要望を満たすには、周辺一帯のデータを詳細にとる必要がある。そのためには長時間飛行できる機体が要るんだ」
カイトは手をポケットに仕舞ったままで手伝う様子はない。
「ちなみにこの機体は帝都大学で航空力学を専攻したあたしの設計なんですよ。凄いでしょう?」
燃料の軽油をタンクに注ぎながらアオイが自慢してみせると。
「自動飛行のAIは僕の設計だがね」
と横合いからカイトが口を挟んだ。
「へぇ~皆さん、凄いお方で」
唖然としているゲンタの横で、ジェットドローンがマイクロバスの上に設置されている射出装置に乗せられる。
「3、2、1、GO!」
合図とともに白い機体が誇らしげに大空へ飛び出した。
「AIによる自動操縦で勝手に機体を安定させるとは言うものの、上空の気流が安定している早朝がベストだからな」
タクミが小さくなっていく機体を見送る。
「うー寒っ! 僕は車内でモニタ監視しているから外はよろしく」
カイトが足早に車へと戻った。車内にはデータ分析用のレーダーや機器、部品が満載されてるのだ。
「で、あのドローンで何を調べるんで?」
ゲンタが小声でタクミに尋ねる。
「ある種の計測器を使うと、樹木等を除いた地形データが観測できるのです。巨大な生き物の通り道には幅の広い獣道があるはずで、それを3D化して割り出す予定なんですよ。ま、その他にも色々調べますけどね」
もしも山神の『はっきりとした獣道』が観測できれば出没を予測しやすくなるのは間違いない。
結局、ジェットドローンが戻ってきたのは発進から3時間ほどしてからだった。
「ほぼ予定通りのフライトだが、データはとれているのか?」
バスの中に設えられた管制室にタクミが顔を出す。
「当たり前じゃないか。現時点で測定可能なデータは全てとれた。今からこれらビッグデータの解析をするんだ。ま、この車に搭載されたサーバはただの『出張所』だから、時間は掛かるがね」
カイトが大あくびをする横で、サーバを冷却するファンが高い音を立てている。
「さて、鬼が出るか蛇が出るか。できれば一発で山神が見つかるといいんだが」
そう言い残し、カイトは車の仮眠室へと向かった。
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