【心の所在】

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「最近日差しが強いですね。いよいよ夏ですね」  眩しい太陽。きっちりスーツを着こんでいるにも関わらず汗一つ浮かべないモリは、わざとらしく暑がる仕草をした。午後三時の公園には、駆け回る幼い子供達、仲睦まじげなカップル達。……勿論、わたし達はデートではない。取引先が開催するセミナーに参加し、その帰り道である。  今時オンラインで事済むだろうと思うが、だからこそオフラインが重要ということなのか。しかしセミナーに参加していた半分はアンドロイドで、講師もアンドロイドだった。対面でしか得られない何かが機械にもあるのだろうか? 「あれは何ですか?」ふと、モリが何かを指差して問う。「え?」とそこを見ると、大学生のカップルが虹色の塊をスプーンですくってアーンしていた。 「ああ、アイスクリームですね。最近虹色がブームなんですよ」 「へえ、あんな色のものがあるんですね。何味なんでしょう?」 「さあ」  大きな公園、煌めく噴水、二人で一つのアイスクリーム。絵に描いたようなデートを楽しむカップル達が羨ましかった。わたしが恋したあの人は、機械の妻とどんなデートをするのだろう。間違えてアイスを食べさせ、故障してしまえばいいのに。モリはわたしのドロドロした感情を知る由もなく「ねえ、何味だったらいいと思いますか?」と呑気な質問をした。別に何味でもいい。 「部長は?」 「私がもし食べることが出来たら、バニラアイスが好きだと思います。王道の味で誰にでも好まれますし、アレンジも楽しめますから」  お手本の回答だ。統計、平均、傾向から導き出す差し障りのない回答。人工知能は意見を問われた際、明確な言い切りをしない。わたしは何故かがっかりして「なるほど」と退屈そうに足元を見つめた。と、突然モリに腕を掴まれて驚く。なんだなんだ?どうやら目の前の通行人にぶつかる寸前だったらしい。  通行人の男性は大きく舌打ちした。時々ストレス発散のためにわざとぶつかってくる輩がいるが、彼もその類だったのだろう。男はこちらをギロリと睨むと忌々し気に「機械風情が偉そうに」と吐き捨てて去っていった。  わたしはカッとなるのを感じた。モリは、お前みたいな人間よりよほど……よほど?社会の役に立っている?わたしは自分の考えが分からなくなった。機械のモリの存在が人間の彼の気分を害しているのなら、モリは人間社会の役に立っているのだろうか?自分の気持ちを探る様に隣のモリを見上げると――彼は見たこともない恐ろしい顔をしていた。 「酷い人ですね」  彼は怒っているのだろうか。傷付いているのだろうか。掴まれたままの腕が熱い。こんなに熱くなってオーバーヒートしてしまわないだろうかと心配になった。
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