【心の所在】

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「モリくん。AI不信の彼女の様子はどうだい?」 「社長。順調に改善傾向にあります。アンドロイド従業員とも上手くやれていますよ」 「それは良かった!彼女は顧客心理を解する優秀なマーケッターだからね。できるだけ交換は避けたかったんだ」  モニターの向こうで男が笑う。皮張りの座椅子にどっしり腰かけ、窓からの逆行でシルエット調になったその男は、映画やドラマの黒幕の様だ。しかしただの社長である。 「自分を人間と思い込むアンドロイドなんて、素晴らしい進化だと思わないかい」  彼は自分達に好意的だが、決して同等には見ていない。モリはその傲慢な生物に、適した感情表現のパターンが見つからなかった。  ――部下である彼女は、自身を人間だと誤認識したアンドロイドである。その視力センサーは自らの額にあるLEDランプの存在を消し去り、電子回路は飲食を始めとする不都合な行為をシャットアウトする。  極端に演算能力、学習意欲、知的好奇心が低く、堕落性が認められ、論理性が欠落している。突飛な言動が多く、自身を唯一の特別な存在だと過信している。  彼女以外にも、最近そういった個体が世界中で発生しているらしい。 「モリくんは彼女をどう思う?」 「私は……何とお答えすればよいか」 「はは、君もまるで人間みたいだね」  もしこの男の言うことがその通りなら、彼女の心は伝染する可能性があるのかもしれない。と、モリは計算した。 「ところで明日、君たちの製造会社と“アップデート”の打ち合わせがあるんだがね。君も来るかい?」 「社長。明日は祝日ですよ。ちゃんと休まないと機械みたいになってしまいます」 「君はどうなんだい」 「生憎、“デート”です。彼女に釣りを教える約束があるんで」  そう言ってモリは、実際にやったこともない釣りのポーズをしてみせた。
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