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私はイヤホンを外した。
目に浮かんでいた涙を袖口で拭いた。
もうすぐ、岩崎が戻ってくる。そうしたら、飛行機に乗って、遠くへ行くんだ。そして、令のことは忘れるんだ。
私は自分に言い聞かせた。
その時、周囲のざわめきに気がついた。
何人かがスマホを見ながら、何か言っている。
そして、もっと多くの人が、壁にかけられた大きな画面を見て、ざわざわしていた。
私は何事かとそちらに近づいて行った。
どうやら、夜のニュース番組の中で何かを中継している。
「現在、幕張ドームで行われている虹組のライブで、何か衝撃的なことが起きているようです。少し前からの映像をごらんください」
ニュースキャスターの言葉の後に、虹組のライブ映像が流れた。
最後の曲を歌い終わった後、4人が真ん中に集まり、客席に向かって手を振っていた。
その時、令が突然マイクを持って話し始めた。
「やっぱりこのままなんて嫌だ」
他の3人は驚いたように令を見ていた。
「みんな、ごめん。俺はみんなに嘘をついた。週刊誌の記事のことだ。ただの隣の住人なんて嘘だ。あの人は俺の大事な人なんだ」
会場がざわざわし始めた。そして、空港でこのテレビを見ている人も何事かとざわめき始めた。
「俺が辛い時、助けてくれて、悲しんでいる時、慰めてくれた。彼女がいないと俺はここにいなかった。それなのに、俺は自分がアイドルでいるために、彼女を裏切った。みんなの前で嘘をつき、彼女のことを切り捨てた。でも、もう嘘はつきたくない」
令は客席に向かって頭を下げた。
「みんな、俺のことを許して欲しい。そして、助けて欲しい。彼女は俺から離れるために、今日、海外に旅立ってしまう。どうかそれを止める手助けをしてくれ。あの週刊誌の女性を見つけた人は、ここに連れて来てほしいってSNSで呼びかけてくれ。SNSだけじゃなくても、どんな方法でもいいから、彼女を引き留めてくれ」
令がまた頭を下げた。客席は静まり返っていた。
すると、後ろで黙っていた藍と倫と優も口々に言い始めた。
「みなさん、お願いします。俺たち、みんなで2人を引き離したんだ。こんなに想っている人から、令を引き離してしまった」
「お願いします。令を助けてあげてください」
「お願いします。みんなの協力があれば、きっと奇跡は起こせるから」
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