旅立ちの虹

2/5
前へ
/75ページ
次へ
私はイヤホンを外した。 目に浮かんでいた涙を袖口で拭いた。 もうすぐ、岩崎が戻ってくる。そうしたら、飛行機に乗って、遠くへ行くんだ。そして、令のことは忘れるんだ。 私は自分に言い聞かせた。 その時、周囲のざわめきに気がついた。 何人かがスマホを見ながら、何か言っている。 そして、もっと多くの人が、壁にかけられた大きな画面を見て、ざわざわしていた。 私は何事かとそちらに近づいて行った。 どうやら、夜のニュース番組の中で何かを中継している。 「現在、幕張ドームで行われている虹組のライブで、何か衝撃的なことが起きているようです。少し前からの映像をごらんください」 ニュースキャスターの言葉の後に、虹組のライブ映像が流れた。 最後の曲を歌い終わった後、4人が真ん中に集まり、客席に向かって手を振っていた。 その時、令が突然マイクを持って話し始めた。 「やっぱりこのままなんて嫌だ」 他の3人は驚いたように令を見ていた。 「みんな、ごめん。俺はみんなに嘘をついた。週刊誌の記事のことだ。ただの隣の住人なんて嘘だ。あの人は俺の大事な人なんだ」 会場がざわざわし始めた。そして、空港でこのテレビを見ている人も何事かとざわめき始めた。 「俺が辛い時、助けてくれて、悲しんでいる時、慰めてくれた。彼女がいないと俺はここにいなかった。それなのに、俺は自分がアイドルでいるために、彼女を裏切った。みんなの前で嘘をつき、彼女のことを切り捨てた。でも、もう嘘はつきたくない」 令は客席に向かって頭を下げた。 「みんな、俺のことを許して欲しい。そして、助けて欲しい。彼女は俺から離れるために、今日、海外に旅立ってしまう。どうかそれを止める手助けをしてくれ。あの週刊誌の女性を見つけた人は、ここに連れて来てほしいってSNSで呼びかけてくれ。SNSだけじゃなくても、どんな方法でもいいから、彼女を引き留めてくれ」 令がまた頭を下げた。客席は静まり返っていた。 すると、後ろで黙っていた藍と倫と優も口々に言い始めた。 「みなさん、お願いします。俺たち、みんなで2人を引き離したんだ。こんなに想っている人から、令を引き離してしまった」 「お願いします。令を助けてあげてください」 「お願いします。みんなの協力があれば、きっと奇跡は起こせるから」
/75ページ

最初のコメントを投稿しよう!

29人が本棚に入れています
本棚に追加