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春は別れの季節
3月の終わり、付き合っていた男と別れた。
「別れよう」とか「別れてくれ」とか言われたわけではない。
ただ、彼が婚約者の女性と結婚することになったと宴会の席で皆に報告するのを聞いただけのことだ。
幸せそうにお祝いの言葉をかけられている彼を見ながら、彼にとって、私は結婚する相手ではなかったのだなとぼんやりと考えていた。
私達の3月は忙しかった。大学の研究室で助手をしている私は、年一回の学会に向けて、学生や院生の指導に、自分の研究発表の準備にと目が回りそうだった。同じ研究室の専任講師である彼も私と同様に忙しくしていたはずだ。実際、ここ1ヶ月ほど、彼は私の部屋に来ていなかった。
なのに、私の知らない婚約者とは会う時間を作って、結婚の準備をしていたのか…。
そう思いはしたものの、それほどショックを受けていない自分のことを、私はそれほど彼のことを愛していなかったのだろうと他人事のように考えていた。
宴会の後、たまたま彼とエレベーターで2人になったので、
「結婚おめでとうございます。今までありがとうございました」
とだけ言って、彼と別れた。
明日は東京に帰るし、お土産買わなきゃな。
そんなことをぼんやりと考えながら、桜の花びらが散る京都の街を一人で歩き始めた。
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