第12話 修行場にて

1/1
前へ
/19ページ
次へ

第12話 修行場にて

 私は、何のことをいわれているのかわからなかった。  ギルドに下級なんて、ものがあるの? 「リティラシー出身だな?」 「どうして、ギルドの名前を?」 「無名なギルドだけど、あのアコーソと集団が壊滅させたギルドだからさ。 おいらは、ニュースになった時に初めて知ったんだがな。 メンバーの教育もせず、魔力を磨かず、ひたすら武器だけの修行をさせる。 これで、セリオがこの世界のことを知らないということにも合点がいくな」  私は、異世界に来て、すぐにリティラシーに入団した。  だけど、そこでは本当に武器以外の修行をしたことがないし、魔力とか、この世界の常識とか言われても、何のことだかわからなかった。 「セリオよ、ギルド選びを間違えたな。 これからは、お師匠様に常識をたたき込んでもらうのだ」  ここで、扉を開く音がした。 「外が騒がしいんだが、何を話しているのですじゃ?」  道場の扉を開けたのは、老人だった。  声は低く、縁なしの眼鏡をかけていた。 「おー、お主はペングウィーではないか?」 「お師匠様、久しぶりですね。 そして、今回は修行で鍛えなくてはならない人がおります」 「またか。 今度は、どんなのだ?」 「おいらの隣にいる彼女は、魔力を一切持たない幼女です。 クライム地方での戦闘ができるようになるために、鍛えてほしいのです」 「初めまして」  老人は、私の顔をまじまじと見た。  あんまり、真剣に見られるのはやだな。 「わしは、マイスターと言いますのじゃ。 お主は?」 「私は、セリオと言います」    なんか、わからないけど、厳しそうな人だな。  私は緊張と恐怖のあまり、怖気づいてしまう。 「セリオか。 クライム地方に行くことを、希望しているのか?」 「はい」 「魔力を感じないのだが、そんな状態で本当に行こうとか思っているのか?」 「え?」 「クライム地方は、世界で一番治安が悪いところだ。 素人が、修行のためとか言って、行くところじゃない。 そこは、内乱とかも普通に起きるところだ」 「私も内乱に巻き込まれる危険があるということですか?」 「まともに戦える状態ならな。 クライム地方は、爆発事故も多いから、巻き込まれたら、そこで人生が終了したものとなる。 」わしの弟子も何人か、クライム地方に行ったものの、連絡がつかなくなった人も少なくはない。 そして、魔法精霊は、各地方にいるのだが、クライム地方だけは一匹しかいない。 その名も、サルヴァトーレ。 彼だけがクライム地方に向かうことができて、有名な魔法精霊だ。 だが、今となっては音信不通だがな」 「警察とかは頼りにならないんですか?」 「警察はいるみたいだが、何人か事件に巻き込まれて、 警察も被害者になってしまうか、 犯罪者の仲間入りになってしまって、 誰を信用していいのかわからなくなる。 また、警察は異動願いを出して、クライム地方を出てしまうことがあるくらいだ。 セリオは、その地方のことを何もわかっていないな」 「はい・・・・」  まさか、こんな危険な場所にいるなんて知らなかった。 「セリオは、今まで何をしてきたんだ? どんな生活を送ってきた?」 「私は3年前にギルドについて、槍での修行をひたすらしていて、外の交流を持ってなくて・・・・」 「お師匠様、彼女はリティラシー出身みたいです」 「リティラシー? リティラシー地方か?」 「はい。 ギルド名が、リティラシーということは、その地方で間違いないと思われます」  そこで、マイスターさんはため息をつく。 「リティラシーとは、そこに下級ギルドがあり、落ちこぼれだけが通う学校があり、宗教はあるが、魔法学園はない」 「お師匠様、魔法学園がない地方なんてあるんですか?」 「そんな地方はたくさんある。 実際、クライム地方にもないしな。 リティラシーは、わし達の住む隣の地方だ。 そこに住んでいる者は、教育が受けられず、世界で二番目に治安が悪いが、魔法を使えない者も少なくはない」 「私がいた地方が、世界で二番目に悪いんですか?」  まさか、私がそんなところにいたなんて。 「クライム地方が魔力で支配をする場所なら、リティラシーは暴力で支配する所だ。 そこは、食料困難や、家がない人が多く、ギルドや施設、宗教内で生活する人が多い。 または、わざと犯罪を犯し、警察に捕まり、牢獄での生活を選ぶなんてこともある。 教育を受けられないために、知識もない」  私は、どんな反応をすればいいのかわからなかった。  だけど、これだけはわかった。  この人を師匠として迎えてしまえば、自分が壊れてしまいそうだ。 「ペングウィー、私は帰るわ」 「急にどうしたんだい?」 「とにかく、帰るものは帰る」 「ほう?」    マイスターさんは、顔をしかめていた。 「マイスターさん、ありがとうございます。 ですが、私は君の弟子になれません」 「これでよい」 「え? いいの?」  ペングウィーは驚いていた。 「弟子と師匠は、ウィンウィンでなくてはならないかな。 誰かに強制されての教育は、何も進歩しないですじゃ。 魔法を鍛えることが、正しいわけじゃないからな」 「ペングウィー、私はクライム地方へ行くわ」 「そんな、無謀な!」
/19ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加