2人が本棚に入れています
本棚に追加
12. 間って?
彼女が小さく叫んだ。
「あ! しまった!」
平和な僕の毎日に、いつも緊張感をもたらすのは、彼女だ。
今日も、彼女の一言で、僕は、問題解決に動き出す。
12. 間って?
彼女が小さく叫んだ。
「あ! しまった!」
彼女の小ぶりのお茶碗は、すっかりカラになっていた。
「あかん。全部、食べてしもた……」
「え? どうしたん? 食べたらあかんの? ……もしかして、ダイエット中、とか?」
僕は、思わず、微妙な話題に踏み込んでしまう。
そんな僕を一瞬軽くにらんで、彼女が言った。
「ちゃう。……あなたの作ってくれた、豚の生姜焼きがあまりに美味しくてご飯が進んで、お味噌汁もすごく美味しくてご飯が進んで、ついついご飯全部食べてしもた……」
見ると、彼女の皿の上には、豚の生姜焼きとキャベツの千切りが、それぞれ半分くらいずつ、お味噌汁は、お椀に半分ほど残っている。残す気なのかな?
首をひねる僕に、彼女が、
「美味しすぎるのがあかん。おかげでご飯食べすぎてしまうから」
苦情のように言う。いや、美味しかったら、……ホメて?
「おかず半分しか食べてないのは何で?」
僕の疑問に彼女が、小さなポシェットから、薬の袋を取り出した。
この数日、彼女は体調不良で、あまり食が進まなかった。やっと回復してきて、今日は、生姜焼きをリクエストするくらい、食欲が復活したところなのだ。
「これのせい」
「?」
袋には、『食間に服用』と書いてある。
「ほら。食間、て。やから、ご飯もおかずも、全部、ちょうど半分食べたところで、これ飲まないと」
袋から取り出した、薬を恨めしそうに見ながら、彼女は続ける。
「おかずは、なんとか半分で止められるねん。でも、ご飯はついつい半分で止めるの忘れて食べてしまうから」
最初のコメントを投稿しよう!