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事実、内閣支持率は20パーセントを切っていたのに、気が付いたら50パーセントにまで上昇した。
野党議員も潔く謝罪するAI総理を責めることはしなくなった。
中尾秘書官はホッと胸を撫で下ろしたいところだが、まだ油断はできなかった。勘のいいマスコミに嗅ぎつけられたら、一巻の終わりだ。
AI総理はそれからも精力的に活動した。
アメリカの国務長官が対中国への自衛隊の後方支援についての話し合いに、来日した際に、記念撮影でAI総理に握手をもとめてきた。
その手を握手した瞬間、国務長官が目を白黒させた。
「ミスター池澤、あなたは精神的にも強い。それだけじゃなく、握力もなかなかだ」
国務長官は握られた手を摩りながら、冗談めかして言った。
研究者たちはなるべく、人間に近い力に近づけた。まだまだ、AI総理は未熟だった。
中尾秘書官は、ベッドに横になり、自発呼吸すらままならない池澤総理の傍らについた。
池澤総理が脳死と判定されてからひと月が経った。池澤総理が生還する気配はなかった。
「総理、あなたの代わりにAI総理が八面六臂の活躍を見せています。ご安心ください。支持率も上昇しております」
池澤総理は目を瞑ったまま。だが、身体は生きている。
ホームドクターが部屋に入ってきた。
「秘書官、呼び掛けてやってください。脳死といってもすべての機能が活動をやめたわけではありません。きっと、秘書官の声は聞こえるはずです」
秘書官は池澤総理の手をそっと握った。
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