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「大変です!秘書官、すぐにプライベートルームに来てください」
電話はSPの一人からだった。
中尾秘書官は受話器を置くと、ジャケットを羽織って席を立ち、駆け足で現場に向かった。
プライベートルームでは池澤克己総理大臣がホームドクターの心臓マッサージを受けていた。
どうやら、寝ている時に心臓に異常を来たしたのだろう。
発見が早く、ホームドクターの対応も早かったので、命は助かったが、生命活動は身体だけで、肝心の脳は活動を放棄してしまった。つまり、池澤総理は脳死になった。
最悪な事態は回避できたものの、脳死となると池澤総理は総理どころか、人としての活動ができない。
この国では脳死は死と定義されてはいなかった。だから、池澤総理は死んではいない。中尾秘書官はそう信じていた。
しかし、総理が脳死となれば、政局は混乱し、日本は最終決定の軸を失う。
今更内閣を解散して、総選挙というわけにも行かない。
中尾秘書官は緊急に与党の閣僚を集め、密室の中での会談が行われた。
ある意味、これは一つの国難であり、野党はもちろん、マスコミにもバレてはならない。
特にマスコミに総理の脳死を嗅ぎつかれたら、民自党は終わりだ。二度と与党に返り咲くことなどできない。
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