山の中の少年

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 司会者に呼ばれた静香さんは今度はスコップを持って、まだ背の低い桜の木の根元に形ばかりに土をかけた。 「今回のコレでBLACK VALLEYのバイブレーション2000が再ブームだって?」  いつの間にか隣に立っていたのは、二宮家の四郎くんだ。  ちなみにバイブレーション2000は静香さんの会社の主力商品で、ブルブル揺れるボードに乗るだけで脂肪を燃焼できるという奴。  私も静香さんからお兄さんを見つけてくれたお礼にとプレゼントされて以来、毎日使っている。 「これだけの時間と労力とお金を費やしてもらってるんだもん。win-winじゃなきゃ申し訳ないよ」  私がそう言うと、四郎くんは「まあ、そうだね」と小さく肩を竦めた。  見返り村から脱出した後、彼はなぜかヴェネツィアンマスクをしなくなったから、さっきから若い女性たちが色めきたっている。  薫ちゃんは「あたしの美貌に敗北を認めたから"陵王"だなんて呼ばれるのが恥ずかしくなったんでしょ」と言っているけど、本当のところはわからない。 「ところで優ちゃんとあの彼氏の仲は進展があったの?」  静香さんと話している薫ちゃんのことを四郎くんが親指でクイッと指したから、私はプルプルと首を横に振った。 「進展なんてあるわけない。薫ちゃんはゲイだから私なんか恋愛対象外だもん」 「ゲイじゃなくてバイじゃないの? 優ちゃん、ちゃんと告白してフラれたわけじゃないんだろ?」 「そうだけど告白したって薫ちゃんに迷惑なだけだよ。本家と分家のみんなを集めての一族会議の場で、「あたしはゲイです」って宣言したんだもん。薫ちゃんがバイセクシャルじゃないのは確かだよ」  「へえ? でも」と言いかけた四郎くんの言葉は、ずんずん歩いてきた薫ちゃんに「2人でこそこそ何話してるのよ? あんたは優にくっつき過ぎ!」と耳を引っ張られたせいで途切れてしまった。  四郎くんは引っ張られた耳を押さえて「痛かった」と涙目になっていて、こうしていると普通の大学生男子に見える。だけど、実は四郎くんは悪霊を地獄に追い払うことができる力の持ち主らしいから、霊と会話できる程度の私よりも霊能力は格段上なのだ。 「薫ちゃん、四郎くんがかわいそうでしょ? ねえ四郎くん、私たちこのあと特急で帰るけど、一緒に帰らない?」  四郎くんとはなかなか会えないから、二宮家と辻堂家の情報交換をするのにいい機会だと思って誘ったのに、なぜか薫ちゃんに「はあ? 何言ってんの⁉」と睨まれてしまった。
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