山の中の少年

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 電車が動き出すまでの間ぼーっとしていた私と違って、薫ちゃんはWi-Fiが復活するとすぐに現在地の座標を調べていたらしい。  ということはどの山のどこら辺に男の子が立っていたのか、ある程度わかるということだ。 「さっすが薫ちゃん!」 「はいはい。足来(あしら)っていう駅で降りればいいみたいよ」 「一時間に一本しかない下り電車がちょうど来て良かったね」  早速乗り込むと、特急電車とは違ってその車両には乗客が三人しかいなかった。  今日は慰霊碑の除幕式に参列するということで、薫ちゃんは紺の清楚なワンピース、私はシルバーグレーのスーツを着ている。  他の乗客たちにじろじろ見られているのは私たちがかっちりした服装だからかと思ったけど、もしかしたらよそ者が乗って来たのが物珍しかったのかもしれない。 ――足来市は山あいの小さな市だから、なるべく目立たないようにしましょ  すぐ隣に座っている薫ちゃんからメッセージが届いたのは、他の乗客たちに会話を聞かれたくないからだろう。でも……。 ――薫ちゃんは美人だから目立たないようにするなんて無理だよ ――まあそうね。あたしたち"美しすぎる姉妹"だからね  ニヤリとした顔文字が添えられていたから、思わず吹き出しそうになった。  【死者を捜し出せる美しすぎる姉妹】というのはネット上で私たちにつけられたあだ名だけど、薫ちゃんは常々「ネーミングセンス悪いわね。姉妹じゃなくてイトコだし」と呆れていたのにね。  足来駅で下車したのは私たちだけで、閑散としたホームを歩いた。 「無人駅みたいね」 「田舎は車社会だから電車に乗る人は少ないのかもね」  線路脇の駐輪場に銀色の自転車が並んでいるから、高校生の利用客はいるようだけど。  小さな駅舎は木造で古そうだ。  改札を抜けるとベンチが置かれていたから、ここが待合スペースなのだろう。 「優。これ見て」 「何?」  薫ちゃんが指差していたのは、駅舎の壁に貼られているポスター。【さがしています】という大きな文字が目に飛び込んできた。 「この子だよ! 私が見たのは」  ポスターの写真は少しピンボケだけど、間違いなくさっき電車の窓から見えた男の子だ。 「渥美 圭太くん、10歳。6月23日午後3時ごろ小滝口小学校を出てから行方がわからなくなりました」  薫ちゃんがポスターの文字を読み上げる。特徴として身長と体重、小柄で額にホクロがあると書かれていた。  電車から見た時は男の子との間に距離があったからホクロまでは見えなかったけど、小学五年生にしては小さかったような気がする。  『お心当たりのある方は小滝口警察署まで』とあるものの、さすがに霊を見たとは言いに行けない。
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