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「え、いいの?」
「いいです。ちょっと仕事がうまくいかなくて。歩きたい気分だったし」
「やった! ありがとうございます!」
女性コックは急いで手提げ袋に弁当を入れた。鼻が赤く心なしか目に涙が浮かんでいた。
陽葵の視線に気づき鼻をすすり手袋で目をこすった。
「やだ、ごめん。あたしも明日から無職なんで」
「大丈夫?」
「わかんないけど、でもこの仕事は続けるつもり」
女性コックは微笑んだ。
「だってお客の笑顔は何よりの報酬だもの」
そのキラキラした笑顔に陽葵の鼓動が鐘を鳴らした。
同じような立場にいるのに仕事への感情は太陽と月くらいの差があった。
陽葵の鼓動はずっとずっと鳴りつづけた。
それから10年が経った。
「わー今日からココが優愛のおうち?! すごーい」
高橋優愛(小学3年)は引越し屋が帰ったばかりの新築の我が家をパパと眺めていた。お昼にコンビニ弁当を買ってきたところだ。
「パパ頑張ったよねー!」
「いや、頑張るのはこれからだよ。35年ローン……たは」
パパは苦笑する。
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