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 「ただの自己満足だった」  「え?」  「ヒーローになれたと勘違いしてただけで、結局俺は琴を救えなかった」  「そんなこと、」  「ないって?……だったら、どうして俺の前から黙っていなくなったんだ」  紡ごうとした言葉を遮られて、何も声が出なくなる。淡々と話す彼に俺を責めるつもりがなくても、自分のした罪の大きさを自覚して息が詰まる。  言い訳すらも出てこない。だって、何も言わずに彼の前から姿を消したことは事実だから。  「……ごめん、頭冷やしてくる」  不穏な沈黙を引き裂くように、彼は後ろを振り返ることなく足早に去っていった。  深く息を吸い込めば、胸が詰まったような感覚がしてうまく酸素を取り込めていないような気になる。  予期せぬ答え合わせは動揺と後悔を運んできた。あのとき選んだ最適解は間違っていて、ただただ優しい彼を傷つけただけだった。  このオーディション、どうすればいいのだろう。  ぐるぐるといろんなことが頭に浮かんできて、俺は全くレッスンに身が入らなかった。  結局、それから俺たちは一切話そうともしないままレッスンを終えることになる。  あの透き通るような瞳に醜い自分が映ることに耐えられなくて、目が合う度に避けてしまったことを後悔している。今もまだ俺は逃げてばかりだ。
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