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 そんなとき、たまたま目に入ったテレビ番組で吉良紡の存在を知った。自分に自信がないことは見ていてすぐに伝わってきた。それなのに、歌うと人が変わったみたいに豹変する。  二回目に見た吉良紡は、初めて見たときよりも強くなっていた。手が震えているのは変わりなかったけれど、その眼差しは以前とは全くの別物だった。  こんな短期間で人って変われるんだ。  そう思ったら、不思議と意欲が湧いてきた。  俺だって、生まれ変わりたい。吉良紡のように強くなりたい。新しい自分になって、彼に会いに行きたい。……俺を救ってくれた、彼のような優しい光になりたい。    オーディション番組で優勝して、紙吹雪の中で歓喜に湧く吉良紡を見つめながら、俺の中でほんの少しだけ意識が変わり始めた。  俺にも何かきっかけがあればいいのに。  そんなことを考えながら大学の構内を歩いていれば、たまたま「JTOがアイドルオーディションをやるらしい」という会話が聞こえてきた。  ――これだ。  どくんと胸が弾む。    口うるさい教授に見つかったら注意されるだろうと分かっていても、歩きながらスマホを取り出して検索する。  一番に開いたJTOのホームページにはでかでかと「アイドルオーディション開催決定!」と書かれていた。  俺なんか、一次審査すら通らないだろう。  それでも何もしないよりはいい。行動したことに意味がある。  諦め半分でオーディションに書類を提出してみたのに、俺に届いたのは「一次審査通過」の通知。
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