玉響

3/5
前へ
/20ページ
次へ
 「天宮は綺麗だよ」  「っ、そんなこと、」  「俺が出会った中で一番かわいい」  恥ずかしげもなくそう言い切った彼の言葉は、不思議とまっすぐに心に届いた。そこに嘘偽りがないと、信じたい気持ちがあったから。  ツンと鼻先が痛む。  唇を噛み締めて、必死に涙を堪えた。弱虫で意気地無しなら、せめて泣き虫だけでも卒業したい。  すると顔を見られないように長く伸ばした前髪を掻き分けて、じっと顔を見つめられる。綺麗な顔をした彼に観察されていると思ったら、すぐに顔に血が上って朱に染まっていくのが分かる。  きゅっと目を瞑れば、ふと微かに笑う声がした。  「笑ってよ、天宮」  「…………」  「俺、お前の笑ってるところが見たい」  固く閉じていた目を開ければ、優しい熱を孕んだ瞳に射抜かれた。凍った心が彼の熱でじんわりと溶かされていくのを感じる。  今はまだ心の底から笑えそうにはないけれど、へにゃりと不器用に笑ってみせれば、鼻を摘まれた。  「ふっ、へたくそだなぁ」  いつも大人びて見えた彼が初めて見せる、年相応の笑顔だった。
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!

61人が本棚に入れています
本棚に追加