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「天宮は綺麗だよ」
「っ、そんなこと、」
「俺が出会った中で一番かわいい」
恥ずかしげもなくそう言い切った彼の言葉は、不思議とまっすぐに心に届いた。そこに嘘偽りがないと、信じたい気持ちがあったから。
ツンと鼻先が痛む。
唇を噛み締めて、必死に涙を堪えた。弱虫で意気地無しなら、せめて泣き虫だけでも卒業したい。
すると顔を見られないように長く伸ばした前髪を掻き分けて、じっと顔を見つめられる。綺麗な顔をした彼に観察されていると思ったら、すぐに顔に血が上って朱に染まっていくのが分かる。
きゅっと目を瞑れば、ふと微かに笑う声がした。
「笑ってよ、天宮」
「…………」
「俺、お前の笑ってるところが見たい」
固く閉じていた目を開ければ、優しい熱を孕んだ瞳に射抜かれた。凍った心が彼の熱でじんわりと溶かされていくのを感じる。
今はまだ心の底から笑えそうにはないけれど、へにゃりと不器用に笑ってみせれば、鼻を摘まれた。
「ふっ、へたくそだなぁ」
いつも大人びて見えた彼が初めて見せる、年相応の笑顔だった。
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