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「何かあった?」
「ううん、なんでもないよ」
何か言いたげな俺を察して尋ねてくる優しさが痛かった。何度も言おうとして、だけどもう彼に会えないのだと思ったらこのまま綺麗な思い出だけを抱えて去ってしまいたかった。
彼との時間は、夢のように一瞬で過ぎ去っていく。
結局、自分本位の臆病者は何も言い出すことができなくて、王子さまを置いて逃げ出した。
シンデレラのようにガラスの靴を置いて逃げ出したわけじゃない。だから、何かを手掛かりにまだまだ若い彼が俺を見つけ出すことは不可能に近い。
でもいつか俺が胸を張って自分を認めてあげられる日が来たら、そのときは俺から彼に会いに行きたい。
もしかすると、顔も見たくないと嫌われているかもしれない。だけど独りよがりでもいいから、どうしても伝えたいことができた。
もしも、また貴方会えたら……。
そのときはちゃんと笑った顔を見せるから。
街を去る日、橙と紫が混じった夕焼けがあまりにも綺麗で眩しくて、なんとも言えない感情を抱えて俺はひとりで泣いた。
今思えば、それは儚いほどに淡くて、だけど決して忘れることのできない青だった。限りなく青い恋だった。
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