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 これは神さまがくれた、最初で最後のチャンス。    何にも持ってない無力な俺だけど、選んでもらったこの場所で踏ん張ってみるから。胸を張って彼に会いに行くために、自分を認めてあげられるようになりたいから。  彼が俺のことを優しい光で照らしてくれたように、今度は俺がたくさんのひとの光になりたい。  たくさんの思いを込めて、卑屈な自分を変えたくて臨んだオーディション。  面接では、夢見る少年のように瞳を輝かせて「俺はアイドルになりたいんだ!」と訴えることはできなかった。でも、ありのままの等身大の自分を伝えることはできたんじゃないかな。真剣に俺の過去を聞いてくれる面接担当のおじさんに熱意だけは伝わったと信じていた。  面接の最後で、最終的にメンターが選抜してグループを作ることになっていると言われたときは、こんな俺なんかを選んでくれるひとなんていないと思っていた。  だけど何百倍もの選考を通過したからには、今の俺ができることを他の人よりも必死にやるしかない。  そうして、面接を通過した三十人が集められて、グループを組む前のおよそ一ヶ月間のレッスンが始まった。  何度もUターンしたくなる足を必死に前に動かして、たどり着いたレッスン場。鏡張りになった大部屋は既にやる気に満ち溢れた人で埋め尽くされていた。  こんなところに来るのは初めてだ。心臓がうるさく主張する。  ……嫌だな。  レッスンをするのだから鏡張りなのは当たり前なのに、そこに映る自分の姿が醜くて恥ずかしい。誰もこっちを見ないでくれとさえ思ってしまう。
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