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いつかまた会えたら――……。
そう思っていたけれど、今じゃない。弱虫なままの俺じゃ駄目なのに。
全く予期せぬ再会。
心の準備は全然整っていない。
ちっともあの頃から成長していない、彼に見合った強い男になれていないことが恥ずかしい。そう自覚したら途端に何を言われるのか怖くなって、彼が口を開く前に身体が勝手に動き出す。本能は俺の頭よりも賢かった。
だけど、彼の方が一枚上手だった。オーディションのことなんて最早頭の中になかった。立ち上がって瞬時に逃げ出そうとしたのに、手首を掴まれてその場に引き止められる。
掴まれたところから熱が伝染していくみたいにじんじんしている。逃亡失敗から現実逃避するように、ぼんやりとそんなことを考えていた。
「やっと会えたんだ、逃がすつもりは更々ないよ」
「っ、」
散々責められて、詰られて、ぼろぼろになっちゃうんだろうな。そう思っていたけれど、どうやら違ったらしい。
何の色も持たない瞳が俺を射抜く。
低い声は怒りすら孕んでいた。
その声に萎縮して、イタズラがバレて叱られている子どものようにバツが悪そうに俯いてしまう。
すると短いため息の後、少し落ち着いた声が降ってきた。
「琴」
「…………」
「ごめん」
「な、んで……」
どうして紫音くんが謝るんだ。
その真意を分かりかねて、パッと顔を上げる。思わず掠れた声が漏れた。
久しぶりにちゃんと見据えた彼は、以前にも増して輝いていて、相変わらず眩しくてたまらなかった。
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