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空虚な箱庭
生まれたときから、天宮琴という少年はみんなのお姫さまだった。
ぱっちり、きゅるるんとした瞳。
くるんとカールした長い睫毛。
スッと通った鼻筋に、ベビーピンクの薄い唇。
透き通るような白い肌。
よく見知った親戚だけでなく、道行くひとからも「かわいいね」と褒められることが多かった。その言葉を言われる度に母さんは嬉しそうにしていたし、俺だって満更でもなかった。
男の子だから「かわいい」じゃなくて「かっこいい」って言われたいとか、そういう自我が芽生える前の話。俺にとって、「かわいい」は最上級の褒め言葉だった。
名前も相俟って、初対面のひとには必ずと言っていいほど女の子に間違えられてきた。母さんの着せ替え人形になってスカートを履いていたときもあったから、余計に女の子に見えたのだろう。
それでも、俺は何だってよかった。だって、この容姿は父さんと母さんが与えてくれたプレゼントだから。
そう思えていたあの頃の俺は、お花畑のお姫さまだった。
女の子に産まれてきたらよかったのにね。
この顔で男の子だなんてもったいない。
周囲から放たれるそんな何気ない言葉が俺の心をぐさぐさと突き刺すようになったのは、いつのことだろう。
自分を嫌いになる決定打を与えたのはもう少し後のことだけど、少しずつ俺の中で呪いは溜まっていたらしい。それに気づいたのは大人になってからのことだけれど。
正義感が強くて、容姿端麗。勉強もできるし、運動神経だって悪くない。そんな俺はたくさんの友だちに囲まれて、楽しい学校生活がずっと続くとそう信じてた。
平和な日常が突然崩れ去るなんて、箱庭の中のお姫さまは夢にも思っていなかった。
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