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嬉しそうに仕事の話ばかりする彼を見て、少しこだわったのかもしれない――
江口さんのため息と、あの言葉を思い出していた。
――あの男が仕事以外の話をする女性って、どんな人だろうね。
私の切実な願いに対する神田さんの反応は、不穏なものだった。
あからさまに驚き、そして眉根を寄せている。
私は焦った。
『恋人』という甘い響きに酔って、わがままを言ってしまったのかもしれない。
「す、すみません。変なこと言って……ええーと」
気まずいムードを払おうとして、ついさっき彼に買ってもらったばかりのご当地グッズを、バッグから取り出す。ご当地キャラが刺繍された大判ハンカチだ。
「しっ、仕事の話でも全然OKですから! あの……この商品はキャラデザインが可愛くて、いいですよね」
仕事オタクの神田さんに、仕事以外の話をしてほしいなんて、無粋な要求だったのだ。
全身から、汗とともに後悔が噴き出す。
私はハンカチを大きく広げてひらひらさせた。
懸命に取り繕ったつもりだが、神田さんの意識は逸れなかった。私からハンカチをむしり取るようにすると、瞳を覗き込んでくる。
その目つきは怖いくらい真剣で、思わずたじろいでしまった。
怒ったのかもしれない。
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