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「か、神田さん…あの……」
「これは仕事じゃないぞ」
「……はい?」
仕事じゃない――
って、どういうことだろう。
私はどぎまぎしながら、彼の真剣な目を見返す。
カップをベンチに置くと、神田さんはハンカチを私の目の前に広げた。
苺をモチーフにしたゆるキャラ"いっちゃん"が、にっこり笑っている。苺の生産が盛んなここW市の、ご当地キャラクターだ。
「今日はずーっと、仕事の話なんてしてない。これは俺の趣味で、君の趣味でもある。そうだろ?」
「え……」
趣味。私と神田さんの――
「俺はてっきり、解ってくれたものと」
「あっ」
心外そうな彼の顔つきを見て、私はようやくピンとくる。
神田さんは告白の中で、私の自己紹介に惹かれたと言った。
――子どもの頃からご当地グッズやトモロウの製品を好きだという君に共感した。
――俺にとっては最も魅力的な発言だったよ。
ご当地キャラの"いっちゃん"が刺繍されたハンカチは、私と神田さんにとって、商品サンプルではない。
「お喋りも買い物も全部、それは仕事ではなく、私達の……」
「ああ、共通の趣味だろ」
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