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無理
「みかげさん、好きです」
そう言った途端、
「その気持ちは、お受けできません」
少し寂しそうな表情を見せて、彼女は言った。
お互いに趣味が合って、今日初めて会うことが出来たので、思い切って告白した瞬間、まるで時間が止まったかのように二人とも沈黙してしまった。
面会時間はあと10分を切っている。
「お友達でいて欲しいけど、リアルで会うのはこれで最後にしましょう」
さらに追い打ちをかけるように彼女は言う。あまりの言葉にぼくは、
「そんなの、嫌です」
「嫌だと言われましても」
ふと思ったことがあった。もしかして、と、聞いてみる。
「彼氏さんとか、いるんですか? それとも、既に結婚されて」
「そういうことじゃ、ないです」
「じゃあ、どうしてですか? いきなり恋人が嫌なら、友達からでも」
「友達になら、とっくにもうなってる」
なにがどうしてなのだろう。わけもわからず思いをぶちまける。
「だったら、もう会わないなんて言わないでよ! 病気が治ったら、ふたりで花火を見に行こうよ!」
「ありがとう、だけど」
「けど?」
「あなたを悲しませること、したくないの」
「……」
また少し間があって、彼女は続ける。
「わたし、もうすぐ死ぬと思う」
「……、病気、そんなに悪いの?」
「あんまり、良くないし、ずっと退院出来ない。たぶん、長くない……」
「そんな」
「あなたのこと、苦しませたくない。だからもう、会わない方がいいと思うの」
そんなのは、いやだ。
「嫌だよ! また会いたいよ。こんなに話の合う人他にいないし。告白を断られるのなら仕方ないけど、でも、あきらめたら試合終了だって言うじゃない」
「その言葉、ネットでたまに流れるよね。でも私は……、無理だと思う」
「無理じゃない!」
みかげさんは首を横に振って、言った。
「そんなに私のことが好きなの?」
単なる面食いではない。本当に好きなのだ。
「もちろん」
「そう、なんだ……、ありがとう」
「ありがとう、なんて言わないでよ」
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