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ほんとかな(みかげside)
「若いって、こういうことなのかな」
ゆうきが帰って行ったドアを見ながらみかげは言った。
身体中に繋がれたチューブは、自分がここから簡単には動けないことを示している。
病院の外に出たいと言っても、おそらくダメだろう。
「好きになってくれたのはうれしいけど、それを失うのは嫌だよね」
ベッドの横にある写真立てには、みかげと付き合っていて、5年前に急病で亡くした元婚約者の写真がある。
「あなたを失った悲しさを、ゆうきくんには味合わせたくない……」
まるで自分に言い聞かせるかのようにつぶやくと、みかげは婚約者を失った時のことを思い出していた。
結婚が決まり、幸せの絶頂期に突然襲ってきた悪魔のような報せ。
数日前に大好きな花火を一緒に見に行っただけなのに、聞いた瞬間頭が真っ白になった。わけもわからないうちに葬儀となり、眠っているような彼の亡骸を触れた時、あまりにも冷たく、その瞬間になにがなんだか分からなくなり、ひたすらに泣いた。
友達や家族がはげましてくれたが、その内容は心に響いて来なかった。今思えば申し訳ないが、どうすることも出来なかった。
次の年、病を得て入院になった時さえ、死んだら彼のもとに行けるからいいとさえ思った。
「本当に、つらかったな」
ゆうきくんがあらわれてからも、その気持ちは変わらなかった。気の合う年下の友人、それだけの存在のはずだった。
夏も終わり、もう花火大会も終わっているはずなのに、ゆうきくんは、近くで花火を見せてくれるという。いったいどうする気なのだろうか。
「勢い、だけかな」
みかげは、あまり期待はしないことにしようと思った。
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