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じーという古い冷蔵庫や何か、そんな機械が震えるような音が続いていた。それがいつからか僕の脳に入りこんだ出鱈目なウイルスによるものなのか、あるいは彼女が発しているものなのか分からなかったが、僕はその音に誘われるようにして泣いてしまう。
なんて、なんて独善的なのだろうと、その涙の温度から、僕は自分自身に対する懺悔を感じて、それはつまり許されようとする行為なのだということを知らなければならなかった。
「う、うううううううううう、う、う」
重たい鉄の塊(たとえるならあの赤茶けたマンホールだ、薄汚い街の路地裏にでもあるような)を引き摺るような不快な音を彼女が響かせた。泣いている。と僕は思った。そう思えたことが救いだった。嬉しかったのだ、ただ僕は。
彼女に残された最後の肉体はその腕だった。黒い鉄の塊に無理矢理突き刺したかのようなその白く、甘い色を湛えるその腕は、意思もなくそこに存在していた。
僕はおそるおそるその腕に触れる。あの時、彼女が僕に願ったのは、人にやさしくしてほしい、というだけの簡単なことだった。器用だとか、まして誰々と違ってなんてのは関係のないことだったのだ。
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