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彼女の腕は冷たかった。僕はその腕に口づけをする。彼女の中を流れる血液に何かを訴えたかった。
目を閉じるとそこには海があった。乾いてしまってどうしようもない海だ。微かに残された小さな水の塊がどこかへ向かおうとしていて、黒くて白い歪な太陽が、その水の塊に最後の審判を下すかのようだった。僕はそんな世界の中をあてもなく彷徨い始め、水の塊に向かって沢山の足跡を落とし続けた。
いや、ひとつだって足跡なんてつけられたのだろうか。分からない。僕はきっと蟻だ。群れとはぐれてしまって、それでもなお甘い、とにかく甘いあの水の塊を目指している。海は塩水だから甘いわけはないのだ。だがそれをどうにも甘いものに感じさせたのは死の誘惑だろうか。分からない。何も分からなくなってしまった。
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