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「ああ、君が例の『夢月くん』か。驚きの白さの」
「はい?」
取引先の社長に呼び出されたかと思えば、そんなことを言われた。初対面なのにこちらを知っているようだ。というか驚きの白さとは?
「新山咲夜って、君の彼氏でしょ? 後輩なんだよね、大学の」
やはりその名前が出るか。「驚きの白さ」とはつい先日、咲夜から言われたことだ。
大学の後輩? 咲夜が、だよな? まだ二十代に見えるが、たしかこの人のほうが歳上だったはず。
「そうそう、咲夜くんが後輩。僕が先輩」
よかった。合っていた。
それにしても、大学の先輩にまで知られているとは。職場の人間にも話しているらしいし、あいつは口まで軽いのか。
「違う違う。彼、ちゃんと口は堅いほうだよ。弁護士だし、守秘義務もあるからね。ただ僕たちが、ああ、もう一人彼の先輩ね、二人で咲夜くんの口を割ってしまうだけ」
割ってしまう? 事故みたいな言い方だな。
「うん、話してたら自然と読めちゃうんだよね。それで咲夜くんもつい話しちゃう」
読めちゃうって。
というかさっきからひと言も話していないのに会話されているんだが。取引先だし妙なことは言えないな、と黙っていたら話が進んでいるんだが。
「そうそう、咲夜くんもそんな感じで、黙ってても読まれることよくわかってるから、もう話しちゃうんだよね」
「そうですか」
夢月が話せたのは名刺交換以来初めてだ。どれだけ一人で喋るんだこの人は。
「これは営業用だよ、さすがにね。普段はそこまで話さない。うちの相方に聞いてみてもいいよ。咲夜くんが連絡先知ってるから」
「いえ、そこまで」
あなたに興味がありません、と言いそうになった。
ただ、思ってしまえばそこで終わりだった。
「ははっ。率直でいいね」
「すみません」
笑ってはいるけどさすがに気を悪くしたかも、と謝罪する。心を読まれて気を悪くしていいのはこちらかもしれないのに。
「なるほど、咲夜くんもこういうタイプが好みか。わかるわかる。俺たちみたいなのって、芯のある人に惹かれるんだよな」
そこだけ話し方が変わって「ん?」と思う。違和感がある。一人称も安定していない。ふわふわとした話し方。掴めそうで掴めないところは咲夜と似ているかもしれない。
「ああ、彼は素であれだもんね。すごいよ。参考にさせてもらった」
ということは、この人は素ではない。なるほど。なのにこの人は咲夜と共通点を感じている。なぜか? ……興味がない。
「君、頭良いね。うちに来ない? 英語話せる?」
「えっと……。日常会話はできません。出張で稀に使う程度です」
なぜ引き抜きのような話をされているのだろうか。
「出張先と頻度と期間は?」
「うちのアメリカ工場へ、年に二、三回、二週間から一か月程度です」
面接みたいだ、と感じながら答える。
「なるほど。忘れそうになった頃に飛ばされる感じだ。いいね」
全然良くない。週六勤務で唯一休みの日曜日は観光と称した交流会。残業と英語のオンパレードで日本にいるときよりも休めない。
「でも一之瀬くん、今日からひと月は残業なしで帰れるよ? うちに来ない?」
「……ええと、ひとつ質問いいですか」
「いくつでもどうぞ」
答えなくても会話されていることをさておいても疑問がある。
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