25人が本棚に入れています
本棚に追加
「つまんないわ」
シワシワの口元を更に子供みたいに、すぼめた菊池さんに苦笑した。
「たった一日だけの若返りとか、神様はイジワルね。今日も相変わらず、身体が重たいったら~!」
元に戻ってしまった菊池さんが、悲しそうにぼやいている。
「とりあえず、朝ごはんを作りたいんですが」
「そうね。ああ、久々にパンが食べたかったのに悔しい」
「柔らかいのなら食べられませんかね? 近くのパン屋に耳まで柔らかい食パンが売ってるんですけど」
「ステキじゃない! ねえ、行ってきてくれる? 奈々ちゃん。あ、ついでに自分の荷物も回収してらっしゃい」
「了解です。ちょっといってきますね」
「ええ、すぐ帰ってきてくれないと私、お腹空いちゃうしね、早くね、早く」
急かす笑顔に微笑み返し、立ち上がる私に菊池さんが思い出したように。
「はい、これは家の鍵よ、無くさないで。朝食がすんだら、ちゃんと契約してね? 忘れてない?」
「はい、今日からお世話になります」
「こちらこそ、これからもどうぞよろしくお願いします」
「いえいえ、こちらこそ、どうかよろしく」
お互いに頭を下げ合って恥ずかしそうに手を振り合って、新しい朝を歩き始めた。
やけに軽くなった身体に感謝して、う~んと一つ伸びをしたら、走り出す。
ただいま、と言える人がいる家に早く戻りたい。
おかえりの笑顔に会いたくて――。
最初のコメントを投稿しよう!