青天の霹靂

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「でしょうね~」  わかるわあ、と頷きながら笑う彼女にブスッとふくれてみせた。 「腰は痛いし、膝も痛いし、身体もクッソ重いし、それに目が良く見えないし、なんだか耳も聞こえづらいんですけど……、というか、菊池さん、それ私の身体! なんなの、これ、どうなってんですか? なんの呪い!?」  ベッド横の椅子に腰かけた菊池さんは、私の顔をしていた。  ピンク色の訪問リハビリテーションのユニフォーム姿の二十五歳の自分。  外見が私自身のその人を睨むと「本当に困ったわねえ」とニコニコしている、中身は菊池和江(かずえ)さん、八十五歳。 「言っておくけど~、私が呪いをかけたわけじゃないのよ。足立さん」 「本当に?」 「本当よ~! 私だって、さっき目が覚めたら、リビングのソファーだったのにビックリしたもの。起きた瞬間に、節々が痛くないし、なんだか軽いし。これはもう天国にでも召されちゃったのかもしれないわ、苦しまずに行けて良かった! ピンピンコロリ作戦大成功ねって喜んで万歳しながら、伸ばした腕がやけにツルツルピカピカじゃない? あなた、お肌キレイよねえ~」 「そりゃ、どーもです」    ムスッと唇を尖らせたら、私の腕を自慢げにこちらに見せる。  訪問介護でついた女性らしくない筋肉はさておき、ムダ毛もお肌の手入れも万全である。 「で、入れ替わったことに何か心当たりはない? 足立さん」 「あるわけないじゃないですか、夢ならとっとと目覚めたいですよ」  悔しくて、ギュッと握りしめた手はシワシワで力があまり入らない。  リビングのソファーで昼寝をし、目覚めたら、介護先のおばあちゃんになってました、とか悪夢でしょうに!
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