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「菊池さん、疲れませんか?」
ベッド横にあるテーブルにお茶を置いてくれた後、正座しながらベランダ窓の溝にたまった土ぼこり掃除を始めた菊池さんに声をかけた。
「ぜーんぜん、だって体が軽いんだもの」
「まあ、それはわかります。いつもそっちの身体だった時は『疲れた』が口癖でしたけど、菊池さんの身体はマジでしんどいです。息するだけでも疲れるし」
「それはちょっと大げさじゃない?」
「……、盛ってみました」
「もう、足立さんってばあ、本当に楽しい方よねえ」
ケラケラ笑ったあとで、ふと我に返ったように私を見上げた菊池さん。
「そういえば足立さんって今日でお仕事お辞めになるって言ってなかったかしら?」
「そうです、そのはずです」
どうして? と首をかしげた菊池さんの目を見ていられずに、そっと逸らした。
「……クビになったんですよ」
「まあ、そうだったの? 次のお仕事はもうお決まりなの?」
「ぜーんぜんです」
笑おうとしたら拍子に咳き込んでしまう。
ヨダレが器官に入るところだったみたい。
が、力もなさすぎるせいか、咳まで弱々しくて、ひいひいしてたら菊池さんが背中を撫でながらお茶を差し出してくれる。
「心配になるわねえ」
「菊池さん、自分のことを心配してくださいよ。次の担当者、鬼ですよ、鬼! いつもみたいに「起こして~」なんて甘えちゃダメですからね。寝たきりにならないようにって割とスパルタですから」
「やだあ、怖いわあ」
眉尻をさげた私の顔をした菊池さんがため息をついた。
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