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「ああ、クビになった理由ですよね。クレームが入ったんです。私がお金を盗んだんですって」
「ええ⁉」
「月曜日と木曜日を担当しているおじいちゃんのタンスから、私が来る度に一万円が消えていくって会社に連絡があったんですよね」
「足立さんがやるわけないじゃない~!」
「はい?」
「だって、あなたがやれるのは精々、お仏壇のお供え物をこっそり食べたり、冷蔵庫のプリンを食べてたり、それくらいでしょう?」
「……、気づいてました?」
「気づいてたわ、最初は私がボケちゃったのかしら? って思ったけど、足立さんの口の周りにカラメルがついてたりするから、なるほど~って」
ケラケラ笑う菊池さんに、首をかしげた。
「だって最初に私が言ったじゃない。足立さんの好きにしていいわって。私はあまり食べられないから家にあるものは食べてもいいのよって。そのために宅配で取り寄せてもらってたんだし」
「黙って食べてて、すみませんでした」
「いいの、いいの。私一人じゃ腐らせちゃうから、ちょうど良かったのよ~。でも、お金にはあなた一切手をつけなかったでしょ。だから、他のお宅からお金を盗んだなんてこと絶対にないわ、そのじいさんの狂言か、ちょっとボケてらっしゃるのか、ご家族の仕業ね! あ、ネズミかも!」
腕組をして眉間に皺を寄せた私の顔した菊池さんを見ていたら、なんだかボヤけてくる。
「あらあら、まああ、どうしましょう? 大丈夫? 疲れちゃった?」
涙が急に溢れて視界がどんどん悪くなる。
目頭にあたったのは柔らかなタオル。
さっき枕の下にと敷いたばかりの上等なバスタオルで私を覆うように、菊池さんに抱きしめられた。
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