青天の霹靂

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「なんで、私のこと信じてくれるんですか?」 「だって、私と足立さんの仲じゃない? もう三年近く、面倒見てもらったのよ。あなたの仕事っぷり、私はわかってるつもりよ~」 「私は、菊池さんに対して介護らしいことは一つも」 「たくさん話し相手になってくれたじゃない。他の曜日の人は、仕事しかしてくれないの。そりゃあ寂しいったらないのよ~、そっけないし。でも、足立さんだけは必ず私の顔色を見にきて、手の温かさをみてくれたりしたでしょう? 起きている間中、話してくれたでしょう? それに、あなたにシャンプーしてもらうの、とっても気持ちがいいの。これは他の誰にも負けない、あなたのナンバーワン特技よ?」  よしよしと子供をあやすみたいに背中をトントンとしてくれる菊池さんの優しさが沁みてくる。  会社は私を信じてくれはしなかった。  なぜなら私には前科があるからだ。  高校の時、両親が離婚し、母に引き取られた。  だけど、その母も恋人を作り出て行ってしまい、残された私は高校を中退するより他は無くなった。  その日食べるものに困って、空腹のあまりお金もないのにコンビニに行き、弁当を盗もうとして捕まったこともある。  今の会社に入った時、当時のことを正直に話した。  社長は『苦労したんだね』と涙ぐんで、受け入れてくれたはずだったのに。   『足立さんにはガッカリです、手癖の悪い人は一生そうなんですかね』  その言葉に私は反論する気力が無くなった。  信じていた人に見捨てられてしまった、そう思ったら、どうでも良くなってしまったのだ。 「足立さん、住んでるのは会社の寮だったわよねえ?」  コクンと小さく頷いた。  いつか話の流れで、私の生い立ちを菊池さんに話したことがある。  あの時、菊池さんはシワシワの手で私の頭を撫でてくれて『足立さんは頑張り屋さんだね』と褒めてくれたんだっけ。
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