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「仕事も住むところもなくなるなんで、ひどい話じゃないの。ちょっとそのじいさんのお宅に伺って、私が話を掛け合ってあげたいけれど」
「いや、無理ですよね、菊池さんは今、私だし」
「ああ、そう、そうなの~よ。この分じゃ私が無職になっちゃうんだったわ」
笑えない冗談なのに、楽しそうな姿を見ていたら、なんだかバカらしくなってくる。
「いいんです、もう。どうにかしますから」
「どうにかって、こういうことじゃないでしょうね」
せんべいの入っていたポケットではない方から、菊池さんが取り出し広げたチラシは、寮付きの夜のお仕事募集。
「これは良くないわ~。いえ、望んでそういう職業をしている方もいらっしゃるでしょうから、差別ではなくね? あなたが望んでいるようには見えないから止めてるの」
「……、どっちにしろ、菊池さんの姿じゃ面接で落とされますけど」
「あらやだ、失礼ね~! 私だって昔は美人だったのよ~? あ、ねえ、それじゃあ、こういうのはどう? 今度は私があなたの面倒を見るわ」
「はい?」
「だって、どの道、私の身体じゃ働くのも無理じゃない? でも、今の私なら、あなたのために動いてあげられるでしょ? ちょっと待っててくれる?」
「菊池さん? なにを」
「しっ、少し黙ってて。あ、もしもし、菊池和江ですが、ええ、お世話になっております」
家の電話を取るとどこかに電話をかけ始めた。
声の高さを低くし、お年寄りの声に似せようとしていることにクスリと笑いが込み上げる。
この人は一体何をしようとしているんだろうか。
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