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こんなに酔いが回るのが早いのは、上司の説教と自慢話が長かったせいだ。苛立ちながら、僕は、冷たいコンクリートの上に横たわり、鈴虫と蛙の合唱に包まれていた。西側の空では、茜色と紫色の雲が混ざり合い、不思議な色をしている。
何も考えず、ただ、〝勿忘〟と書かれた、錆びれた駅名標を見続けていた。
すぐ隣の線路には、草木が生い茂っている。
最終列車は、平成十一年に発ったらしい。
「……電車、来るのかな」
顎を上げ、線路の向こう、木々の間へと目をやる。
――この廃駅には、都市伝説があった。
黄昏時に待っていると、ひとりでに動く列車がやって来て、どこかに連れ去られてしまうという、曖昧で不明瞭な噂話。
そんなもの信じる性じゃないけれど、気付いたらここに来ていたのだ。
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