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目が覚めると、僕はまだ列車に揺られていた。
淡い陽の光が差し込み、つり革が踊っている。
『足元にご注意ください。列車とホームの間が広く開いております。お出口は左側です』
おもむろに列車が止まると、僕は我に返って起き上がり、窓の外を見る。
愕然とした。
「……広く、開きすぎだろ……」
そこには、一面の海が広がっていた。
見渡す限り、ホームなど見えない。
『この列車は、終点・あの世行きです。回想を終えた列車は廃車となります。引き続きのご乗車にはなれません。発車まで、しばらくお待ちください』
しばらく波のない海を見続けてから、頭を抱えた。
――ただの噂話じゃ、なかったのか?
僕は今、異界にでも連れて来られてしまったのか?
頼むから夢であってくれ、と生まれて初めて両頬をつねってみるけど、何も変わらなかった。
僕は、開いた扉の前で座り込んだ。
「……海にでも、落ちろってか?」
この列車に乗り続けていたら、アナウンス通りだと……あの世に行くらしい。
けど……。
その場から動けないでいると、バシャッ、と水の音が聞こえてくる。
音の方、車内後方に目をやると、そこには――
「……久しぶり」
十四歳の、僕が立っていた。
学ランを来た僕は、水の滴るまま、座席に腰掛ける。
そして、何事もなかったかのように、週間少年漫画雑誌を読み始めた。
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