廃駅の回想列車

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   口を開けたままポカンとしていると、十四歳の僕がこちらを見て、言い放つ。 「そこで何をしてるの?」  なぜか、青太の顔が脳裏に過ぎった。  まだ小説を書いていて、この間やっと二次選考に残ったんだ、と嬉しそうに話す顔。そんなの書いたところで、と(わら)う僕を見る、失望した顔。  十四歳の僕が、今の僕に問いかける。 「――幸せになった?」  ふるふる、と僕は首を横に振っていた。床に膝をつけ、項垂れる。いつの間にか頬が濡れ、肩が揺れていた。……本当は、僕も、ずっと無邪気に夢を追いかけていたかった。  でも、そんなの現実的じゃないだろう?  大人になっても、漫画を描くなんて――難しいよ。  いつまでも、夢を見られる人なんて……ほんのひと握りだ。  なぁ、そうだろう? 青太。 「……そっか。せっかく、僕を捨てたのにね」  十四歳の僕は、沈んだ声で言う。 「……捨てた……?」 「君は、僕を捨てた。クラスの連中に馬鹿にされて、笑われた僕を、いとも簡単に捨て切った。否定して、周りの意見を尊重した。皆の輪に混ざろうと、僕をゴミ袋のなかに閉じ込めて――生きていこうと決めた」  重い前髪の、冴えない僕が訴える。  そうだ……確かに、僕は僕を捨てた。  漫画道具を買うのをやめ、高い美容室に行った。部屋に閉じこもるのはやめ、外での趣味を増やした。友達も、たくさん出来た。  彼女だって、出来た。好きだとか、言い合った。結局、別れたけど……。  漫画のキャラに恋するより、ずっといいだろう、と思った。  いつからか、漫画は読めなくなっていた。  何か、言いようのない悔しさと悲しさが、ふつふつと沸き上がってくるから。 「僕は……変わったんだよ」  熱い目を擦り、声を絞り出す。
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