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「生きていくためには、お前は邪魔だったんだ。勉強も、恋も、仕事も、お前のままだったら、何一つ上手くいかなかっただろうな。絶対……」
「でも、今、幸せじゃないんだ?」
真っ直ぐな声色に、妙に腹が立つ。
こいつも……青太に似ている。
「うるせーなぁ!!!!」
僕は、僕に飛びかかった。
学ランの襟を掴み、ネクタイに涙を零しながら、訴える。
「僕は……僕は……っ、」
必死に、前を向いて歩いているんだ。振り返らず、笑顔を貼り付けて、覚えたくもない単語を頭に入れて、名刺の渡し方も身につけて。
心にぽっかりと空いた穴は、見て見ぬふりをして。
地から足が浮いたように、ずっと……。
「くっ……そ……」
何も言えなくなった僕は、僕の膝の上に、顔をつけた。
十四歳の僕は、何も言わず、ただただ黙っていた。
顔を上げると、普通に漫画を読んでいた。
「……必死かよ」
言うと、僕はこちらを見て、表情も変えずに言う。
「当たり前だろ。今いいところなんだから、邪魔しないで」
また、ひとりの世界にこもっていく。
鍛えられていない表情筋、整えられていない眉毛、ボサボサの髪……。
それでも、瞳だけは。真っ直ぐで凛とした、澄み切った瞳のなかは、世界を照らす日の光にも負けないくらい、確かに輝いていた。
綺麗だ。素直に、そう思った。
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