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『――まもなく、扉が閉まります』
アナウンスが響き、ハッとする。十四歳の僕は、聞こえていなかったのか、ずっと漫画に夢中になっている。
「おい、降りるぞ」
僕は、僕の腕を掴む。
「は? 何を言ってるの」
「一緒に、帰るぞ」
言うと、僕が思い切り睨んでくる。
「馬鹿なこと言わないで。……また、僕のことをすぐに捨てる癖に」
バッ、と僕は手を払いのけられる。
無言でページを捲り、口も聞いてくれない。
……そうだよな。そりゃあ、そうだよな。僕は、全くもって信頼されていない。
静かに扉に向かって歩いていくと、降りる前に振り返り、そこで立ち止まった。
僕は、僕に向かって言う。
「なぁ。実は、今日死んでやろうと思ってたんだ」
十四歳の僕が、顔を上げる。
その瞳のなかに映る僕は、どのくらい情けない顔をしているのだろう。
「毎日、通勤する度に、頭に過ぎるんだ。……今、このホームから飛び降りたら……って。そしたら、このつまらない毎日からも、解放されるのかな? って」
僕は、自嘲した。
「……そんなこと、勇気が出なくて、実行には移せなかったけど。移せる気も、しないけど……でも、今なら出来る気がする」
僕は両手を広げ、目を瞑った。
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