1 大好きな本と初めてのお友達

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1 大好きな本と初めてのお友達

「良いお天気だなぁ。こんな日は良いことありそう!」 見上げると綺麗な空、葉っぱにたまった水滴がキラキラしていて、思わず気持ちも足どりも軽い。 私、未知野 夢芽。 通称ゆめ。 鐘夜学園に初等部に通う小学5年生なの。 絵本を始めとしたファンタジーな物語が大好きなの。 学園までの道どりでこんな風に楽しみながら歩いているのは私だけ。 なんでかっていうと、うちの学園は勉強やスポーツに力を入れていて、エリートばかりなんだ。 だから休み時間も勉強しているクラスメイト達にはとてもじゃないけど話しかけずらい。 放っておいてって言われてるみたいで邪魔したら悪いなって思うし、話しかけようとしたらかみつく様な勢いなんだもの。 私はというと勉強もスポーツも出来ない訳じゃないけど、ちょっとドジだし、テストで満点って訳でも無い。 そんな思いつめなくてもいざという時困らない程度には頑張れば良いかなって思ってる。 この町には他に学校も無かったし、他に嫌な所も無かったからここに通うことを楽しもうかなって思ったんだけど… まだお友達は出来ていないんだ。 本当は大好きな本の物語を語り合えるお友達が欲しいなって思うけど… 今の所難しい。 だから私は授業より、図書館で一人で本を読む時間が何より楽しみなんだ。 「今日は転校生を紹介するぞー!君、入ってきて。」 学園に着いてから先生が入ってきて、転校生を紹介すると言ったんだ。 わ~どういう子だろう?…仲良くなれたら…良いな。 ガラッ すると扉を開けて一人の男の子が入って来た。 「要 太陽くんだ。みんな仲良くする様に。」 先生が紹介した後に男の子…要くんがぺこっとおじぎし、そしてあいさつをした。 「要 太陽です。前の学校では陸上クラブに入ってました。よろしく。」 さすがにその時は無反応じゃなくて、パチパチと拍手して迎えた。 私も拍手していると、その要くんと目が合ったんだ。 思わずにこっと笑うとあっちもにこっとしてくれた。 何だか良い子そうだ。 授業を終えてあっという間に放課後だ。 みんなテキパキと質問に答え、テストも順調に終えるから普通より速く時間が過ぎる。 放課後の時間は委員会とクラブの時間。 私は本が好きだから図書委員に入っていて、こうして委員会が無い日もバスが来る時間まで図書館に入りびたっている。 委員会があったとしても、図書館司書のおばさん達と先生以外は誰も来ないんだ。 みんなそんなに本や物語に興味が無いのかな… 見たとしても頭を使う様なパズルとか歴史とか算数とか理科の本ばかりでそれも本じゃなく、電子書籍で見ていたりするからこの図書館まで来なくて良いみたい。 電子書籍も算数とかの本も良いと思うし、普通にどこでも見れて便利で勉強にもなる。 私もそれはそれで好きだ。 だけど…たまには物語を見てほしいと思うのは無茶なことなのかな…? 本の匂いも手ざわりも何といっても本に夢中になると自分も登場人物になれるかの様な楽しいこの時間が私はとてつもなく好きだ。 だって物語の中なら誰でも魔法を使える、夢を忘れることはないからだ。 子どもも大人も年齢、性別、国だって飛び越えられる。 クラスメイトとも話を分かち合いたいけど本が好きな子は誰もいない。 それどころかみんな勉強や運動を1番になることにギスギスさえしている。 勉強も運動も大事なのは私も分かってる。 本を読むことも漢字や難しい単語が出てくる時があるから読むにも学びは必要だ。 だけど…学ぶことが好き…それがみんなの自分の本当の夢ならどんなに良いか。 だけどみんなは夢じゃなくてお父さん、お母さんに1番を取りなさいって言われて自分の意思じゃなく勉強、運動している感じだから。 周りを蹴落として、競い合って、話も出来ないなんて… 目の下にくまがある子もいる、やり過ぎて体調を崩す子もいる。 その様子が何か辛そうで見てられない。 本当に好きなこと…出来ているのかな?なんて…余計なお世話かもしれないけど… そんなことを思っていると…窓に目がいった。 今朝もそうだったけど雨あがりで綺麗な虹が窓から見えたからだ。 「綺麗だなぁ…」 と思わずつぶやく。 そうしてまた本に戻る。 ちょうど虹が出るシーンだった。 何だかシンクロしてるってくすっと笑みがこぼれる。 お調子者のピエロがみんなを笑わせるシーンには笑いが止まらない。 子犬が親と再会出来るシーンは思わず涙が出る。 そんな風に私は一喜一憂しながら本を見る癖がある。 感情を出しながら魔法の様なその時間がとても楽しい。 しばらく本を夢中で見る。 するとそんな私に影がかかる。 「…?」 あれ?ちょっと暗い? 照明の調子が悪いのかなって思ったら… すぐ目の前に見知った顔が見えた。 くりくりの大きな綺麗な太陽の色の瞳。 ちょっとつんつんしているけどさらさらもしている不思議な髪質の赤茶髪。 肌は健康的な小麦色。 口元はにっと笑うそんな感じ。 全体的に爽やかな印象。 まるで楽しいものを見つけた、そんな感じに見えた。 身を乗り出して私をのぞきこんでいた…その人物は… 「わあっ要くん!?」 今日転校してきた要 太陽くん。 その子が私をいつからかは分からないけど見ていたんだ。 よくよく考えたらあまりに近くて鼻と鼻がくっつきそうだったからびっくりして後ろに倒れそうになる。 「わっ…危ない!」 さっきまで笑っていた要くんは今度は私が倒れそうになるのを見て顔色を変えて後ろ側にまわってきた。 そして私の背中の方を支えてくれた。 「ごめん…ありがとう。」 びっくりしてまだドキドキ言ってるよ。 な、何であんな近かったの!? 「いや、俺の方こそいきなり驚かせてごめん。そんなつもりは無かったんだ…」 そうあやまる要くんは落ち込んだ子犬の様に見えた。 自然と行動しているんだね。 素直に行動しているその感じ、うちの学園にはいないタイプだなぁと思えた。 「私もおおげさに驚いてごめんね。」 「いや、お前は悪くないよ。えっと…?」 うかがう様な目線を感じたんだ。 何かを探る様な… あ、自己紹介まだだったもんね。 名前を知りたいのかもしれない。 話す時はまずは名前から名のるって本で見たことあるんだ。 「…ああ、もしかして名前かな?私、同じクラスの未知野 夢芽。」 「ありがとう。俺は知ってると思うけど要 太陽って言うんだ。よろしく!」 そう言ってまたにかっと笑う姿がその名の通り太陽みたいでまぶしい。 良かった…!当たってた。 「よろしく。要くんは…」 「太陽で良いよ。俺もゆめって呼んで良いか?」 「えっ…あ…うん、良いよ。じゃあ…太陽くん、ね。」 「おう!」 名前を呼ばれて本当に嬉しそうに笑ってくれた。 私も家族以外で名前を呼ばれるの初めてで何だかドキドキする。 明るくて爽やかな印象だなぁ…太陽くん。 あと結構ぐいぐいくるなぁ… 屈託ない笑顔というか態度もすごく爽快感がある。 そんな感じだから私もつられて嬉しくなる。 もしかして…もしかして… お友達になれる…かも!? とわくわくしてしまう。 だってこんなの初めてだ。 誰かと授業以外のことでお話するなんて。 でも図書館に来たっていうことは… 「あっ私に何か用事?それとも本を借りたいのかな?今日はお当番じゃないけど、ハンコとカードのある場所知ってるから借りれるし…」 一旦太陽くんから離れてカードのある場所へ行こうとする。 すると手をつかまれてさえぎられる。 「あっ違うんだ。いや、違わないか…本は見に来たんだけど…お前、ゆめも居るって思わなくて…」 「うん?借りたいんじゃないんだ。ごめん…早とちりだったね。じゃあ何か他の用事?あ…学園の案内…とか?」 う~ん…あとは何かあるかなぁ…? なんて思っていると…太陽くんは少し照れくさそうに… 「お前と話したくて!」 と言った。 「え…っえー!?わっ私!?」 同じくらいの声の大きさで驚く。 だって…だって…話したいってことは…太陽くんもお友達になりたいって思ってくれてたってこと!? 案内とか本を借すとか義務的なことじゃなく…個人的にお話したいってこと…なんだよね? 夢見てたことが現実になってる!? ここは図書館で大声はダメだけど、今は私達以外居ない。 さっきまで司書のおばさんが居たけど、用事で少し開けるからその間お留守番お願いしても良い?と言われたんだった。 「お前以外いないだろ?ゆめ。あと本は借りようかなって思ったし、学園案内も嫌じゃなければしてほしい。」 照れくさそうになおも話してくれる太陽くん。 会ったばかりだから大胆なのか照れ屋なのかちょっとまだ分からない。 「それは良いんだけど…何のお話したいの?」 お友達になるってことは望んでたけど、私は特別お話上手って訳でもお勉強が出来る訳でも無い。 運動のアドバイスも先生の方がずっと良いから… 「ゆめ、本が好きなんだろ?さっきから夢中で読んでるし。俺も好きなんだ!だから、夢中になる気持ち分かるっていうか…やっと気持ち分かってくれる奴を見つけたって思って近付き過ぎたんだ。だって俺ってこんな見た目だろ?いかにもスポーツ好きそうって思われて前の学校でも陸上クラブに入れられたんだ。まぁスポーツも嫌いじゃないけど。一番は本の物語っていうか…」 よ、良かった…本のお話だった…! それ以外のお話だったらどうしようかと思ってたよ。 そうだよね、図書館にわざわざ足を運ぶってことは本が少なからず好きなんだ。 それにこんな風にキラキラ話してくるってことは…好きは好きでも大好きな方、かもしれない。 言われて見ると確かにその外見はどちらかといえばスポーツしてそうな感じだ。 中で本を読んでいるより、外で動いている方が似合うって思う気持ちも分からなくはない…かな? でも、クラブも委員会も自分の意思で決めるものだ。 強制は良く無い。 私もみんなに本の楽しさは伝えたいけど、無理やり読ませようとは思わない様に。 「そうだったんだ…そうだよね。なんとなく気持ち分かるよ。一度きりの人生だもん。好きなことがあったらそっちの方も気になるよね。」 この学園はクラブは自由で良かったと思う。 先生達も頭も良いし運動も出来るけど、分からずやじゃないし。 「私も…お友達欲しいって思ってたんだ。本の楽しさを分かってくれるお友達が。だから話しかけてくれて嬉しいよ。」 そう言ってにこっと笑うと太陽くんも照れ笑いみたいな感じになった。 「良かった…なぁ、ゆめはどんな話が好き?俺は探偵のとか、正義の味方みたいのとか、冒険活劇が好き!あとファンタジー!」 目を輝かせて言っているから本当に好きなんだなぁとほほえましくなる。 確かにそういうジャンルが好きそうな雰囲気もある。 それに私と同じジャンルが好きなんて… 最高だ! 「私もそういうの大好き!ファンタジーも探偵ものとかも良いよねっ私はあとは魔法使うのも好きかなぁっ」 大丈夫かな?こんなに興奮してと思ったけど、太陽くんもうんうんと興奮して聞いてくれている。 「じゃあ好きな本のタイトル、いっせいに言おうよ!せーのっ」 太陽くんもこくんとうなずいて… 二人同時に叫んだ。 「「海底王国の秘宝!!!」」 しめし合わせてもいないのに見事ぴったりとハモった。 それはもう、綺麗に。 「ゆめも!?マジで!?やったー!」 「うん!あの最後の場面はこっちまでハラハラしちゃったよね!」 「おうっマジあせったよな!でも俺もあんな風に冒険してみたいって思ったもん。」 「海底王国の秘宝」とは私達と同じ年頃の男の子が隠された秘宝を見つけてお姫様も国も守ったという冒険ファンタジーだ。 男の子は最初は魔法の知識が無いから学校へ行くことから始まって色々苦戦しながら、知識をつけていき、成長していく…といった感じの物語。 海底でも息が出来たり、大きな巨人が現れたり、龍も出てきたり、無理難題の宿題を出されたり、しゃべるエイが出てきたり…と夢いっぱいな所が魅力だ。 まさか学園で、しかも同じ年でこれを分かってくれる子が居るとは… まさに天の恵み! 二人で思わず話に花が咲く。 そうしていると…突然ふっと図書館の電気が消えた。 「…あれ?どうしたんだろ?電気が切れたのかな?私、見て来るね。」 「待って。俺も一緒に行く。薄暗くて危ないからな。」 「ありがとう。」 お言葉に甘えてついてきてもらう。 電気をつける所までたどり着いて、何度かつけようとしてみたけどつかない。 「あれ?これでつくはずなんだけどな…どうしたんだろ?こんなこと初めてだよ…」 「懐中電灯はあるのか?」 「うん、すぐ隣にあるよ。ほらこれ。」 そうして懐中電灯をつけてみてもまだ薄暗い。 もう夕暮れ時だ。 それにここは電気がついていなければ校舎の影に隠れて一層薄暗い。 司書さんが帰ってくるまでまだ時間はありそうだし…留守も任されているから外にも出れないしどうしよう。 「俺、職員室に行ってこようか?それともここで一緒に司書の人待ってた方が良い?」 私を心配してくれているのか太陽くんがうかがう様な視線が見てくる。 ありがたいけど…それじゃらちがあかないから… 怖いけど…職員室に行ってもらった方が良いと思う。 「じゃあ…」 そう言い終える前に気付いたんだ。 本棚の中が光っていることに。 あれは…何だろう?
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