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⒑ 謎のお兄さんの過去
「君は…友達に騙されたことが無いんだな…だからそんな希望にあふれていられるんだ…どうして僕がこんなことをしているか分かるか?その友達に裏切られたからだよ。軍に売られてボロボロに働かされた…そして殴られたり蹴られた。そんな生活はもううんざりだ。そんなものは何も得られやしないんだ。自分が助かる為には裏切る奴だって居るんだよ!」
あ…この言葉…どこかで…
あっあのカフェで聞こえたかもしれないつぶやきだ。
やっぱり美晴ちゃんとも接触していた?
どういう目的で?
「騙されたことなんて…無い。お友達だってこの間出来たばかりで…楽しいもの…」
そうしたらふっと笑って…
「…やっぱりね。今の子どもは何も知らない。善悪の区別だって最近では曖昧じゃないか。何が悪い事か良い事かなんてまるで分からない子ばかりだ。だから平気で事件も起こすし…捕まるなんて思っちゃいない。まるで平和ボケだな。戦のある国はきついぞ…生きるか倒れるかの世界だ。子どもだって兵士は容赦してくれない。僕なんかより残虐で…一声なんてかけずに問答無用で傷付ける。食べ物だって飲み物だって当たり前には出てこない。そんな世界で僕は育った。」
平和ボケ?
お友達が居て笑っていることが?
子どもだって容赦してくれない世界?
何それ?本当にそんな世界がこの広い世界の中であるの?
社会科ではまだそこまで習っていないのかな…
これから習うのかな?
それにしても日本はまだ平和なのかもしれない。
だってお友達と笑えて、本がいつでも読める環境なんだもの。
それにこのお兄さんはそんな世界で育った?
それがどれほどきついかなんて私は想像出来なかった。
それが平和ボケ?
「やっぱり知らないだろ。そんな世界があることさえ…君らのひいじいさん、ひいばあさん位の世代だもんな。戦があったのも。平和なのは良い事さ。だけどそれだけじゃ事はうまく進まないんだ。絶対的な力が必要なんだ。戦を絶対しない、逆らうことが出来ない力が。それが魔法の力ならば…叶うんだ!僕の夢はそれさ。全世界を従わせること。そして絶対的権力と金と魔法の力で…新たな王国を築くんだ。逆らう奴や暴れる奴は魔法で身動き出来なくする。それで永遠の万事解決さ。ほら、悪い事もしなくなって良い事だろ?」
従わせる…?
本当にそれで…どうにかなるの?
また争いが生まれない?
永遠の解決なんて誰が決めるの?
だって…それって何か…
「それも戦じゃないの…?どう違わないの?」
「え…まさか…君は知らないから…」
「知らないよ。全然分からないよ。だけど、すごく悲しいことなんだよね?戦って…誰かが得をしてもどこかで悲しむ人や…損をする人が居るってことだよね?それは分かる。だって魔法で従わせても…また逆らったら同じことを繰り返すの?いつ解決するの?」
「…っでも…それは…」
言葉に詰まったみたいだった。
返す言葉も無いみたいな。
本当は分かってるんだ。
永遠の解決はそんなんじゃおとずれないってこと。
魔法の使い方を間違えているんだ。
「従わせるんじゃないんだ。魔法を使うなら…もっと正しい方法があるんだよ。みんな満たされないから…戦って奪うんじゃないの?だったら…満たされれば良い!」
そう、従わせるんじゃない。
満たす為にはあげれば良いんだ!
生活が困っている人が居るなら…困らない程度の生活費と食料と寝床を!
家族やお友達が少ない人が居るなら…居る喜びを!
消えた自然があるなら…緑あふれる自然を!
そしてそれを忘れない、ずっと大事に出来る心を!
身動き取れなくすることじゃない。
これなら魔法で出来る!
しても良いことかもしれない!
「お兄さんの国に今から魔法の力を送れないかな?それならしても大丈夫だと思うの!ね?そうしようよ!太陽くん!」
「え!?今から!?まぁ…一刻を争うんだったら仕方ねーか。まぁ良いけど。」
太陽くんも姿を現した。
このお兄さんの過去を聞いて信じたんだ。
本当にあったことだって。
「…っ君らは本気で言ってるのか?僕は君らを…おとしいれようとしたんだぞ?それを…」
信じられないと言うかの様な表情。
過去とはいえ、お友達に裏切られたのが効いてるんだ。
トラウマ、とでも言うのかな?
それがあるみたいだった。
だから再び誰かを信じるのが怖いんだ。
だけど…このお兄さんの力なら私達をすぐ拘束出来ることも攻撃を当てることも出来たはずだ。
銃も壁じゃなくて私達本人に当てることもしようと思えば出来たはずだ。
それをしなかったってことは…このお兄さんにはまだ良心が残っている、はず。
それを信じたい…って思ったんだ。
「だって…攻撃当てなかったでしょ?それをしなかった。だからそれはこのお礼だよ!助けてくれたお礼!」
「お…れい…」
初めて聞く…そんな感じだった。
私もお友達が出来ないこと悩んでいた時期があったから分かる気がするんだ。
いないことがどれだけ寂しいか。
お友達や家族と居る時間がどれだけ大切な時間かそれを知ることが出来たのはすごく良いことだ。
それを知れたのはすごくすごく嬉しい事だ…!
一人で一人を楽しんでいる人は良い。
でも…好き好んでずーっと永遠に一人で良い!なんて人は少ないと思うんだ。
この人にもまたお友達を信じてほしい、本当の「夢」を思い出してほしいんだ。
「あなたの本当の夢は…従わせることじゃないよね?本当は…平和な国になることが夢…なんだよね?」
「…っ!」
少し誤解してたね。
自分の国を何とかしたいってそう思うから。
必死に動いてたんだ。
何とかして魔法の力を手に入れようと。
やり方は間違っていたかもしれないけど、やり方さえ合っていたなら…それはそれで素晴らしい夢だ。
大きな夢だ。
「僕は…僕は…本当はそう…だったのか?」
頭を抱え、そうつぶやく姿。
「悪者」にしか効かない瓶の魔法。
それからいつの間にか出て、悩んでいる今のお兄さんは…もう「悪者」じゃなくなってるってことなんだよね。
「その姿が事実だよ。その魔法は悪者にしか効かない。お兄さんは悪者を演じてまで国の為に動いていたってことなんだよ。」
「え…?そう、だったのか…僕はそれをずっと勘違いして…っ何をしてたんだ…っこんな子どもに教えられて…馬鹿みたいだ…」
「馬鹿じゃねーよ。それに子ども子どもってうるさいし。子どもだって大人だって年に関係なく知らないことがあったって良いだろ?逆もまた然り。子どもから大人に教える大事なことがあったって良いじゃん。」
太陽くんの言う通りだ。
経験も場数も環境も人によって違うのだ。
年はただの数字でしかない。
大人が子どもに教える様に。子どもから大人が学ぶこともあったって良いはずだ。
それに国の為に立ち上がって頑張ろうとしたお兄さんは決して馬鹿じゃない。
見て見ぬふりをする人も多いからだ。
いじめも暴力も見て見ぬふりをする人は沢山。
そんなのよりはずっとましだ。
何かを変えようと必死だったんだから。
そんなお兄さんを馬鹿にする人が居たら…それは本物のお馬鹿だ。
「…っ!そう…だな。大人子どもなんて…関係無い。馬鹿にして悪かった…そして、攻撃しようとしてしまったことも…許してくれるなんて思わない。だけど…言わせてくれ…すまなかった…この通りだ…」
頭を下げている。
これは「本物」のお兄さんの気持ちだと思うから。
信じたいと思うから。
私達はまたうなずいて
「「良いよ!」」
と言ったんだ。
そうしたら…お兄さんは怪しい笑いじゃなくて…
初めてほがらかに笑顔を見せたんだ。
「ありがとう、ありがとう…!」
と綺麗な涙と共に。
そうしてお兄さんは緊張の糸が切れた様にぽつりぽつりと答えてくれたんだ。
実は私達のクラスや他のクラスの子達も実は操っていたことも。
「夢」が無い様に。
「夢」が生まれて傷付かない様に。
お友達を作らない様にしていたと。
だからあんなにみんな一心不乱に勉強したり、運動して人と関わるのを避けていたんだね。
じゃあ美晴ちゃんに接触していたのもそうだったんだね。
謎が解けた気がした。
じゃあこれからは…みんなと話せるかもしれないね。
もう、その魔法は解けていたみたいだから。
今度は大好きな本の話が出来るかな?
そんな楽しい様子を思い浮かべて、お兄さんの銀貨から平和になる為の魔法を、お兄さんの国に二人で力を合わせて贈ったんだ。
そう、それはまるでプレゼントみたいに。
戦なんて無かったみたいに。
平和で明るい国を想像しながら。
みんな、正気になって口々に謝り出していたから…成功した…みたいだね。
良かった…そう思うと私達は力を使い果たしたみたいで眠ってしまったんだ。
いつの間にか船からは救出されていて、私達には温かい毛布がかけられていた。
「ごめんね、ありがとう」という文字のメモを残して…
あのお兄さんは消えたんだ。
自分の国に帰ったのかもしれない。
あの集団は実は平和を愛する集団だったのかもしれないね。
誰よりも国のことを思い、行動出来る。
素晴らしい人達。
誤解していたな。
分かってくれて良かった…
救助の船の人達からもらった温かいホットミルクを飲みながら私達はまた二人寄り添って眠ったんだ。
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