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⒒ 今度こそ渡すんだ!私の大事な人の為に
あれからさらに数日。
何事も無く、過ぎて…
これこそ平和ボケ?かな。
でも…平和が一番だよ!
だけどあれ?
何だか忘れている様な…?
「あああああー!」
「何!?いきなり大声出して…」
美晴ちゃんが驚いた顔をして振り返る。
そして他の仲良くなったクラスメイト達も。
口々にどうした?大丈夫?と心配してくれた。
みんな謎のお兄さんの魔法が解けて、気軽に話せる様になった。
それはとても嬉しいし楽しい、けど…
大事なことを忘れていた。
プレゼント…結局渡せていない。
あの騒ぎでプレゼントにする為に様にしていたチョコマフィンはどこかへ行ってしまったのだ。
だから食べてもらってないし、渡せてもいない。
「渡せてないの…プレゼント…」
「ええ?まだだったの?二人すごく仲良いからてっきり渡せたんだとばかり…」
「また作ろうかな…でもでも時間あるかな?」
「うーん…どうだろう?いつかも分からないよね?留学…」
そう、太陽くんは運動の部で姉妹校である海外の学園に呼ばれているんだ。
太陽くん本人からはまだちゃんと聞いていないけど…
校長室に呼ばれているのを何度も見た。
他の子達もそれを見ているし話しをしている声を聞こえたそうだから私達5年生の間ではもっぱらの噂だ。
太陽くんが海外に行くかもしれないって。
だって…「夢」の為なら仕方ないよね…?
それは太陽くんが決めることで…
家族で決めることで…
私が決めちゃいけないし、口を出すことも出来ないんだもの。
将来に関わることだし、下手な事言えないよ。
どうしたら良いのかな…
私って結構優柔不断…なのかな?
そもそもあの騒動もあってプレゼントを渡す件は太陽くん忘れているかもしれない。
最初言った時も俺何言ってんだろ?って言ってたし…
本当は不本意でふいに言っただけかもしれないし…
本当は渡さなくても良いのかもしれない。
別のプレゼントか方法を考えても良いのかもしれない。
そういえば太陽くんの「夢」…聞けてないな…
私に言う事じゃないかもしれないけど。
私はお友達と出来れば大きくなるまで…ううん出来れば一生お友達でいたいタイプなんだって最近気付いた。
重たい感情…かもしれない。
だって相手はそう思うかなんて誰も分からない。
魔法では人の心をのぞくことは出来ないから。
自分で確かめるしかないんだ。
最近は一人で居た時を忘れる位、最近は太陽くんとライちゃんと美晴ちゃんとクラスメイトのみんなと一緒に居たから…
ふいにおとずれる方向の違いというか、いつか私の前から太陽くん達が離れていくってこと…考えたらとても辛かった。
いつ「嫌い」とか「やだ」とか言われるかもって…
みんなそういうこと言う子達じゃないって分かってるけど…
一度マイナスにかたむいた考えは止まってくれなかった。
私だけが特別に想ってるんじゃないかって…
いつまでも悩んでうつむいてる私に、美晴ちゃんが声をかけてくれたんだ。
「ねぇ…ゆめちゃん。」
「な、何?」
「その手作りのプレゼントって太陽くんが自分で欲しいって言ったんだよね?」
「う…うん。でも結構前のことだし…忘れてるかもって…美味しくないかもって自信無くて…」
自分自身に自信を持ったこと自体、正直私は少ない。
そういう感情を普段表に出すことは少ないから周りにはそうだと気付かれてないかもしれないけれど…
実は結構、胸を張って自分をアピールするとか苦手だったのかも。
だからもし、褒められてもどこかで本当に期待に応えられるか不安だったんだ。
こういうの…自己肯定感が低いっていうのかもしれない。
言いたいのに言い出せないとか、自分を表現することが苦手なそういう子は結構いるかもしれないけどね…
私は元気でいたい面と自信が無い面がその時々交互にくる感じ。
自分でもよく分からないけど、そんな感じだと思う。
太陽くんの様な自信たっぷりの勉強も運動も魔法も何でもそつなくこなせる子の隣に並ぶのも実は少し抵抗がある時があったんだ。
大好きなお友達だけど…そう思う時があるのが申し訳なく思っていたんだ。
自分は本当に太陽くんのお友達にふさわしいのかって…
うつむいて、自分の服のすそをぎゅっとつまむ。
だって…期待して…求めてもらえてなかったら…すごく辛いよ。
それが、怖い。
気持ちを知るのが。
こんなに怖い事だったなんて初めて知った。
「私も全然自信無かったよ。受け取ってもらえるか不安で…でもゆめちゃんが言ってくれたんだよ。クッキーをあのお兄さんに渡す時。その気持ち届けようよ!って…その時すごく嬉しかったの。光が差した気がしたんだ。他ならぬゆめちゃんが私の「夢」を後押ししてくれたんだよ。」
「え…?私が?何で…ただのおせっかいっぽいけど…」
そう言うとぷるぷると首をふって美晴ちゃんは笑ったんだ。
すごく、優しい笑顔で。
「おせっかいなんかじゃないよ。それは親切って言うの。優しい気持ちだよ。実はあの後ね、またあのお兄さんに会えたんだ。手違いであの時のクッキーはダメにしちゃったけど、君にもう一度作ってほしいんだって言われて…最初の食べてもらえなかったのは残念だけど…そのおかげでまた会えたんだ。それにまた勇気を出して渡せたんだ。そしたら…目の前で美味しい、ありがとうって食べてくれて…すごく嬉しかったの。実は…初恋だったんだ。私の。成功するかしないかは分かんないけど…誰かの為に動けるのって声をかけてあげれるのってそういうの誰にでも出来ることじゃないよ。自信持って!」
「美晴ちゃん…!ありがとう。」
ありがとう…こんなまだまだ未熟な私でもなぐさめてくれるんだね。
それは美晴ちゃんが優しいからだけじゃないんだよね。
私がちゃんとお友達出来ている証拠なんだ。
そうだ、それこそが私が思い描いていたお友達。
本だけじゃなくて、現実の大切なお友達。
生きているんだって自覚させてくれる様な…
そっかぁ…!あのお兄さん…あの船の事件の後また美晴ちゃんに会ってたんだ。
でも今度は意地悪じゃなくて…ちゃんと美晴ちゃんの「想い」を受け取りに来たんだね。
良かった…ちゃんと更生出来てたんだ。ううん、あのお兄さんの本当の優しさなんだね。
話を聞いただけでも伝わってくる。
二人の優しい気持ちが。
美晴ちゃんは初恋って言った。
それがどういうものかは私はまだうっすらとしか分からない。
想像もしずらい。
だってファンタジーばかりで多分恋愛と呼ばれる本は読んだことが無いから…
本当に未知のことだ。
だけど…その気持ちがとても優しくて、素敵なものだってことは分かる。
とてもかけがえのないものだってことも。
そう言う美晴ちゃんの顔がとても穏やかで優しい表情をしてたから。
そんな気持ちになれる初恋ってどういうものなんだろうって興味がわいたんだ。
いつか私も分かる時がくるのかな?
そうだとしたら…相手は誰なんだろう?
ふと誰かの存在が浮かんだ気がして、ううんと首を振った。
私のは…初恋じゃなくて、きっと感謝の気持ちや友情、な気がする。多分。
相手の人もこんなにぼんやりしてる子じゃびっくりすると思うし…
多分違うや。
…とにかく、うん、少しは自信を持ってみても良いのかもしれない。
私が渡そうとしているのは嫌な気持ちじゃない。
いつもありがとうの気持ちなんだ。
それに思い出したんだ。
約束を忘れていたとしても突き返す様な太陽くんじゃない。
むしろありがとなって笑顔で受け取ってくれる男の子じゃないかって。
美晴ちゃんにはその気持ち届けようよ!って言えたのも本心。
うまくいってほしいから。
笑顔でいてほしいから。
…そうか、美晴ちゃんも私にそうなってほしいって思ってくれてるんだ。
だって…それは…後悔してほしくないから。
いつ行くか分からない留学。
それにはさすがに誘われていない私には行けない所。
今、渡せなかったら次いつ渡せるか、いつ会えるか分からないのに…
ごちゃごちゃ考えなくても、はい!いつもありがとうって言って渡してみても良いのかもしれない。
勇気を出さなきゃ。
なるべく、不快にならない様にあげればきっと…
「…今から家庭科室借りれないかな?」
「ゆめちゃん!そうだね、私、料理クラブだから先生に聞いてみるね!ちょっと待ってて!」
「…っありがとう!」
そうしてすぐかけて行った美晴ちゃんは戻って来るなり、大きな丸を作って笑顔でこう答えたんだ。
「先生オッケーだって!良かったね。火使うけど、私が居るなら使い方も分かってるし、大丈夫だろうって。先生も近くの教室で待機してくれるって。早速行こう!」
そうして私の手を掴んでまた家庭科室まで書けて行く。
最近の美晴ちゃんは積極的でとても活発だ。
もしかしたら…その初恋ってやつが美晴ちゃんをそういう風に変えたのかもしれない。
何だか私まで嬉しくなる。
お友達が楽しそうだと嬉しそうだとこんなにも。
心が躍る。
そうして家庭科室で試行錯誤しながら…四十分程。
やっと納得のいく形が、味が出来た。
これを…前のラッピングが残っているやつでまたラッピングして…
完成だ!
プレゼントを持つ手が震える。
「大丈夫、ゆめちゃんならきっと、ね?」
そう言ってウインクしてくれる美晴ちゃん。
本当に彼女は良い方向に変わった。
勉強ばかりでなく、何事にも積極的に動ける様な、人助けが出来る子に。
…ううん、それはきっと前から美晴ちゃんの中に眠ってたものなんだ。
あのお兄さんの国を助けたい時の様に。
きっかけは人それぞれだけど、それは「夢」が出来たことによって開花する。
大きい花、小さな花、赤色、青色、黄色、緑色…沢山の種類はあれど、それはどれも大事な「夢」。
人類の希望のかけら。
「夢」は自分の中に眠る「才能」なんだ。
ライちゃんの言う通り大事にしなくちゃ…!
そうして私は素敵なお友達に後押しされ、太陽くんの元へと駆け出したんだ。
今度こそ渡すんだ!私の大事な人の為に!
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