⒓ やっと分かった特別な想い

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⒓ やっと分かった特別な想い

太陽くんを探して私は中庭まで来ていた。 いつもここで待ち合わせをすることが多いからだ。 今日もきっと…居るはず。 そうして太陽くんの姿を見つけた。 「太陽く…」 声をかけようとしてギクッとした。 太陽くんの横にはもう一人居たんだ。 綺麗なウェーブで長い髪の可愛い女の子が。 多分同じ年で同じ学年だ。 あれは確か…可愛いって評判の姫城あいかさん。 クラスこそ違うけど、その噂は聞いている。 お嬢様でかしこくて、美人で運動も出来て色白で綺麗な瞳や髪のまさにお姫様みたいな女の子。 あの子も同じ留学組。 もしかして…一緒に…留学に行く話をしているのかもしれない。 その可能性なら充分にある。 だって彼女なら優秀で非の打ち所がないし、推薦枠に余裕で入れるはずだ。 中庭の花が舞う中、かっこいい男の子と可愛い女の子が笑い合う。 何だか…その光景が見ていられなくて…でも絵本の挿絵の様な綺麗な光景で。 私は思わず膝をついたんだ。 敵わないって…何故かそう思ったんだ。 そうして先に姫城さんは太陽くんにプレゼントを渡したんだ。 その瞬間私は元来た方へと駆け出していた。 怖い。この先を見たくない。知りたくない。 自然とそう思って… 悪者と魔法で対決するよりも、辛くて…何だか頭をがつんと殴られる様な感覚で… 胸がざわざわして落ち着かない。苦しい。 何が苦しいの? 何でこんなに苦しいの? ただ、他の子がプレゼントを渡していただけなのに… それなのに…こんなに動揺しているのは何でなの? 何で…何で… 「こんなに涙が出るの…?」 慌ててぬぐうけど、止まらない。 むしろあふれ出す。 何もされてないし、してない姫城さんにも何だか少し嫌な感じを覚えた。 ぐるぐるとしたぐちゃぐちゃとしたもやっとした感情がわいてくる。 嫌だ、こんな感情。 止まれ、止まれ! 「あ!?痛っ」 涙をぬぐいながら走っていたからとうとう足がもつれてこけてしまった。 膝がじんじんしている。 見ると膝から血が出ている。 それも結構な量。 こんな時でもドジはなおらない。 そんな自分が嫌になる。 プレゼントはこけてしまった時につぶれてしまった。 こんなんじゃまた渡せない。 こんなのいるわけが無い。 そもそも私が渡すこと自体が間違いだったんだ。 太陽くんには私じゃない。 姫城さんっていう可愛い女の子が居たんだ。 同じ才能や目標を持っている人同士ならお似合いだけど…私はそうじゃない。 司書さんになるか歌手になるか決められない半端でドジなただのクラスメイトで太陽くんにとってはただのお友達の一人だ。 私があんまりドジだから気にかけてくれてただけなんだ。 魔法使い仲間っていうのも危なっかしいからだし、本が好きな太陽くんだから私の為だけじゃ決してない。 ただなりゆきと同情、それだけで別に深い意味なんて無かった。 私だけが大事なお友達って思ってただけなんだ… ……? お友達ってこんな風に思うものだっけ? 何だか違う。 これ…これって…何? このもやもやや辛さは何なの? (私…初恋だったんだ。) ふとさっきの美晴ちゃんの言葉がよぎる。 何でこんな時に? ううん、ずっとひっかかってた。 もちろん大事なお友達。 初めての学園でのお友達。 そして魔法使い仲間。 優しくて頼もしい私の… 私の…何? 何て言おうとしたの? 私…どうしちゃったの? お友達や仲間にこういう感情を抱くことって多分無いんじゃないかって… 何となくそう思ったの。 ずっと一緒に居たいよ。 本当は留学行ってほしくない。 いつもお話していたい。 笑顔を傍で見ていたい。 留学…大事な太陽くんの「夢」かもしれないのに応援出来ないなんて。 私ってこんなに意地悪だったの? ううん意地悪なんてするつもり無い。 感謝の連続だもの。 だから勇気を出して何かお礼がしたかったんだし。 喜ぶ顔や笑ってる顔、幸せになってほしかった… 最初はただ、それだけだった。 どんどん欲張りになってってる。私。 誰に対しても? ううん、そうじゃないね。 ハラハラドキドキするのも、こうして幸せを願うのも… もちろんみんなにもするけど… こんなにあからさまじゃない。 普通にそう思ってる。 だけど太陽くんにはそれだけじゃおさまりきらない。 大好きで甘酸っぱいそんな気持ちがあふれてる。 これ…この気持ち、美晴ちゃんがしてた表情と感情に似てる。 同じ様な淡い優しい気持ち。 ああ…そうなんだ… これがもしかしたら「恋」なのかもしれないね。 私…いつの間にか「初恋」ってやつを経験してたんだね… 自分がこんな気持ちになるだなんて、少し前までの私なら考えもしなかった。 ずっと物語だけの世界で楽しく生きてきたんだもの。 それで大満足だったんだもの。 だけど…それだけじゃ物足りなくなったのは…相手にも気持ちを求めたのは…太陽くんしかいなかった。 本当なら…「初恋」ってキラキラでもっと綺麗で優しいものだと思ってた。 お姫様と王子様が結ばれてめでたしめでたしで終わるものだと。 でも私の現実ではそうはいかなかった… お姫様は別にいたんだもの。 そしてそれが今破れそうになってる。 ううん、もう破れてるのかもしれないね。 だって叶う訳が… 「ゆめ!」 聞こえるはずの無いその声が聞こえた時幻聴かと思った。 意思の強さを感じさせる私よりちょっと低めの声。 でも、優しくて心に響く様なそんな旋律の様な…不思議と落ち着く声。 聞き間違えるはず無い。 ああ…私が困ってたから慌てて追いかけてきてくれたのかな?なんてこの期に及んで淡い期待を抱いてしまう。 でも、本当にそうかもしれないね。 太陽くんは初めて会った私にも優しかったから。 守ろうとしてくれたから。 とげとげしてた頃のクラスメイトにも優しくしようとしてたから… そして…あの姫城さんにも。 きっと誰にでも優しいんだろう。 それはとても良いことだ。 だけど…今はその優しさが私だけに向けられたものじゃなかったことが何だかとても寂しい。 私にとって太陽くんと共に本使いになった日々は、本当に魔法の様な日々だった。 憧れてた魔法を使えたのもだし、人助けもたくさんじゃないけど、することが出来た。 お友達が出来ないって悩んでた自分とは思えない位、美晴ちゃんを始め、今は何人もの子とお話することが出来る喜びを知った。 ライちゃんとも毎日話せたり、ご飯を一緒に食べれたり、楽し過ぎて両親が留守で寂しいことも忘れられた。 そして…他でも無い太陽くんに手を引っ張ってもらって遊んだり、楽しんだり、助け合ったりして信頼を築いて… そのどれもが色鮮やかな絵本の様で… 私が思い描いていた世界だった。 だけど…主人公が…お姫様が違うなら…もう、その役は返さなくちゃ。 だってそれが物語の終わりとしてはちょうど良いラストなんだから。 「ゆめ?大丈夫か?」 うつむいてなかなか話さない私を心配して太陽くんがもう一度声をかけてきた。 今度はさっきよりももっと優しい気遣う様な声で。 今はその優しさがちょっと痛くてずるいなぁと思ってしまう。 もちろん、ずるいとか本気では思ってないけど。 涙でぬれた顔を見られたくなかったから、無理やり笑顔を作って、涙を慌ててふいた。 「……だ、大丈夫。ほら、私ってドジだから…こけてちょっと泣いちゃって…ごめんね?いつも心配させて…私なら大丈夫だから、もう、面倒は見なくて良いよ。」 アハハと笑いながら目線を合わせる様に太陽くんの顔を見た。 ふと見たら心配そうな顔じゃなくて… 何だか怒ってる? そんな顔、初めて見た。 「…何だよそれ…面倒って…そんな風にいつも思ってたのか?」 声と手が震えている。 まずい、すごく怒らせたのかも? どうしよう…っこんなに優しい太陽くんを怒らせるなんて私何か悪い発言でもした!? これから一緒に居られないまでも、ケンカ別れなんてしたくない。 何とか怒りをおさめないと。 「えっ!?ええっと…その、いつもじゃないけど…っ私迷惑かけてばっかりでしょ?だから思ったの。太陽くん…留学行くかもだし…これからは自分一人でも何でも出来ないとって…」 そう言うとますます怒りを含んだ表情になって固まってしまう。 きっとこれ以上何を言っても無駄だ。 かえって怒らせるだけだって…そう、思った。 「ご…ごめ…」 「謝るな!」 大声で怒鳴られた。 これはもう、確定だ。 嫌われた。 もしかして…お友達でもいられなくなっちゃう? そんなの…嫌だ。嫌われたくない。 どうしたらもう一度普通に話してくれる? どうしたら怒りをおさめてくれる? どうしたら… そんなことを考えているうちに…また涙が出てきた。 今度はすぐには止まらない。 それどころかさっきよりもたくさん出てくる。 地面にポタポタと涙のしみが出来る。 アリスが部屋から出られなくなった時みたいに、大粒の涙が今、私の頬を流れている。 物語の中なら一からやり直せるのに。 そう強く思った途端、何の前触れも無く、私は意識を失ったんだ。
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