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2 魔法使いあらため本使い!?
「あれ…何?」
思わず指を指す。
太陽くんも後ろを振り返る。
「あれ…って?」
見ると七色に光る本があった。
それはどの本とも違う感じ。
なんていうのかな?神秘的?っていうのかな…
すごく、綺麗な…見たことも無い不思議な本。
「…この光ってる本のこと?」
「うん。そう。」
「どういう仕掛けだ?ラメじゃこんなに光らないし、蛍光塗料…とも違う。何だ?」
「もしかして…魔法、とか?」
「…まさか、いやでも…何かこういうの…物語の始まりってこんな不思議な感じ…だよな?」
「うん…だよね。開いてみようか…」
「お…おい待って…」
好奇心が勝って、太陽くんが止めるのを聞かずにその本を開いてしまったんだ。
すると…
パアアアッ
その本が一層輝いてまぶしくて思わず目をつむる。
すかさず太陽くんが間に入ってくれて…
本から吹き出るけむりみたいなものから現れたのは…
ピンクの小さな羽の生えた白うさぎ。
約一五センチくらいのその白うさぎの様なものは…可愛いけど生き物なのかぬいぐるみなのかは分からなかった。
空中にそのまま浮いているから…現実ではありえないことが起きてるんだろうけど…
あんまりびっくりしないのはファンタジー慣れしている二人だったからなのかも。
普通の人だったらいくら可愛い白うさぎでも悲鳴をあげるか驚いているだろうから。
「ふわああっよく寝た…あら?お二人さんよく起こしてくれたわね。ありがとう。この本開ける子なかなかいなくてね…もう長い事寝てたのよ。」
「しゃべるぬいぐるみ…?」
思わずそう言うとキッとにらまれる。
「ちっがーう!あたしはぬいぐるみじゃなーい!」
さっきよりも大音量で叫ばれた。
どうやらぬいぐるみではないらしい。
じゃあなんなんだろう?
「ごめんなさい。私ゆめって言うの。あなたは?」
「お、俺も気になる。俺は太陽ってんだ。」
「ゆめ…に太陽ね。あたし、魔法の本の妖精、ライブラリー。人はみな本の魔術師とも呼ぶわ。あなた達、本を開けれて、このあたしが見えるってことは…素質はありそうね。どう?魔法使いになってみる気…無い?」
私達二人を交互に見てライブラリーさんがそう言った。
「「魔法の本!?魔法使い!!?」」
「二人ともえらく食いつくわね。そうよ。正しくは本使いだけどね。」
「本使いって何だ?」
と太陽くん。
「良い質問ね。本使いとは…本を…物語を守る者。真に本が好きな者が選ばれる。契約した本使いがこの本を開くと中から魔法の杖が出てくるの。その杖はそれぞれ一日三回ずつ魔法が使えるの。もちろん、何でも出来るわ。物を浮かせることも自分が浮くことも変身することだって…どう?良い条件だと思わない?」
ふふんとどこか強気な態度。
魔法の本の妖精さんってことに自信があるかの様な…
ぷにぷにとした外見も相まってすごく可愛い…!
「うん!すごい!私、ずっとこんなこと望んでたんだ!すごいすごいっ夢が叶った気分だよー!」
そう言ってくるくると回る私。
だって嬉しくて嬉しくて仕方ない!
「あら、可愛いこと言うじゃない。あんた名前は?」
妖精さんがそう言う私をとても嬉しそうに見ている。
「私?私は未知野 夢芽!小学5年生ですっ」
まだ興奮がおさまらない。
いつもより元気に手を上げて答えてしまうほどだから。
「そう…ゆめ。じゃあ契約受けてくれるのかしら?」
「うん!もちろ…」
もちろん!と答えようとしたその時…
私の目の前に太陽くんがすっと前に出たんだ。
「?どうしたの?」
「その契約っていうの…大丈夫なのか?」
「大丈夫って…何か問題なの?」
「だって…うまく行き過ぎっていうか…うまい話には裏があるってことだよ。こういうことはちゃんと確かめてから決めた方が良いんだ。」
そう言う太陽くんはすっかり興奮がおさまっている様だった。
頭が良いからすぐ冷静になって考えたんだ。
自分も魔法や本が好きなのに…私に害が無い様にしてくれた…ってこと?
そんな…この妖精さんだって悪い妖精さんじゃない…よね?
ちらりともう一度妖精さんを見ると、さっきとは違う感じで真剣な表情をしていた。
「…そうね、そりゃあ…即決って訳にはいかないわよね。そうね…気を付けることも少しはあるわ。他の人、特に大人には内緒にしてほしいの。大人の中には何かをたくらむものがいるから。善の人ならば良いのだけれど見た目で見極めるのは難しいでしょうから一応忠告。
もし、何かあっても…この魔法の本を守ってほしいの。それが魔法を使う条件。一日あげるわ。それでもこの魔法の本を使いたければ…契約をしてほしい。」
ゆっくりと言い聞かせる様にそう説明してくれた。
さっきは「魔法を使えるんだ!」って興奮で全然気付けなかった。
そうだ…太陽くんの言う通り、上手い話には裏があるんだ。
妖精さんは別にだまそうとした訳じゃないと思うけど…すぐに決めることじゃない。
だって普通は魔法使いの子なんてそうそういない。
悪い大人がそんな力が使える本があるって聞いたら…まずいことになるのは予想出来る。
一日…それで決めれるかな?
ちらりと太陽くんを見る。
すぐにその視線に気付いて太陽くんはこくりとうなずく。
大丈夫、とでも言うかの様な…
「分かった。じゃあ明日の放課後、ゆめと二人でまたここに来る。それで良いか?ゆめも妖精も。」
「ええ、あたしは良いわ。」
「…私も良いよ。」
「じゃあ…そういうことであたしは一度眠りにつくわ。もう一度光るからまたその時に起こしてちょうだいね。」
「分かった…」
「では、おやすみなさい…」
ふわぁとあくびをして、妖精さんは眠りについた。
するとさっきまで光っていた本は元通りになっていた。
まるで他の本と変わらない感じになって。
見た目はもう分からない位だ。
それと同時に図書館の電気もつく。
そうなると…さっきまでの出来事が夢の様に感じてしまう。
「夢…じゃないよね?今の。」
「ああ…俺も見たし…二人して寝てて同じ夢を見てるっていうのはないだろ…」
「そう…だよね。あのね…」
「…?どうした?」
初めて太陽くんが現れてこけた時も、楽しい本の話をしてくれた時も、停電した時も、危険が無い様に止めてくれた時も…全部、全部感謝しなきゃって思ったんだ。
「あのね、こけた時も、一緒に本の話をしてくれた時も、停電の時も、さっき危険が無い様に止めてくれた時も…助けてくれてありがとう。太陽くんって優しいね。」
思わず自然と顔がほころんで、笑えてたんだ。
だって…家族以外で唯一話せたお友達になれるかもしれない子が、少しでも私のことを考えて行動してくれたんだもの。
それが自然に出来ることがすごく尊敬する。
なんて素敵な子なんだろうって思えたんだ。
…勘違いだったら恥ずかしいなー…って思ったけど、そう思えたのは事実だから話したんだけど…
何だかぼーっとしてる?顔をしていて…
やっぱり勘違い!?うわぁ!?恥ずかしい…っ
「あっ…やっ…やっぱり勘違いだった!?ごめん…全然そんなつもりなくて自然にしてたんだよね?うわあっごめん!ごめんね?」
勘違いだって分かってかーっと顔が赤くなる。
うひゃ~っ!!穴があったら入りたいってこういう時使うんだよね!?
「…えっあっそうじゃなくて!ただ、すごくストレートに言うのな…お前って…思ってたんだ。別に、勘違い…とかじゃねーよ…」
そう言う太陽くんもどこか顔が赤くて。二人して赤いふうせんみたいになっていた。
意識だってぽわぽわ浮いてる感じ。
え?勘違いじゃないってことは?やっぱり…思った通りだったってことで…
「もう、この話、終わり!とにかく終わり!契約のこと、明日までに決めようぜ!」
何かたえきれなくなったのか太陽くんは手をバタバタさせて、明日の事に話題を変えた。
そ、そうだよね…大事なことだから良く考えて答えを出そう。
「う、うん!じゃあまた明日ね。あ…校門まで分かる?そこまで送ってこうか?」
「おう!じゃあ頼むわ。」
そうしてカバンを教室まで取りに行って二人で途中まで帰ったんだ。
だけど…本の時間は待っていてくれなかったんだ。
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