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3 そして契約へ
そして次の日の朝になった。
小鳥の声で目覚めて、今は学校へ行く途中。
ふあ~あとまぬけなあくびをする。
昨日はあまり眠れなかった。帰ってからずっと契約のことを考えてたんだ。
でも、決めたんだ。
私、契約したい!って。
やっぱり魔法が好きだし、夢だった。
自分も物語の主人公みたいに活躍できるのが。
力不足かもしれないけど、妖精さんは私を、私達を見つけてくれた。
本を守るって役目も気になって仕方ない。
本の為になるなら…行動したい!って思えたんだ。
だから、太陽くんがどんな選択をしても…私は私の思ったことを、決めたことをやりとげたいって…!
「おはよう!ゆめ」
思わずふり返る。
学園で私をそう呼ぶのは…彼以外いない。
「おはよう!太陽くんっ」
昨日私と一緒に魔法の本を見つけて契約を持ちかけられた太陽くんは本好き仲間だ。
話しかけてくれるってことは昨日の事は夢じゃないんだね。
初めてのお友達…って思っても良いのかな?
そうだったら…嬉しいな。
「宿題出来たか?結構な範囲出たろ?」
「え?ええ!?」
「さては…忘れてたな…」
うう…あきれて見れられてる…
「ど、どうしよう~すっかり忘れてたよー!」
「はあー…しょうがねぇな…教えてやるから早く書いちまうぞ!」
「えっ!?教えてくれるの!?」
「だって…友達…だろ?困ってる時には助けるの当たり前じゃん。」
そうしてちらちらとこっちを見てくる様子が何だか可愛い。
あ…ありがたい…!
お友達って言ってくれるのも、助けてくれるのも…
ありがた過ぎて私がお友達で良いのか少し自信が無いよ…
うん、よし決めた!
私も…私の出来ることで太陽くんを助けよう!
そう、決心したんだ。
とにかく今は…宿題をやらないと…いけないけど…
「……お言葉に甘えてよろしくお願いします…」
太陽くんはこくんとうなずいた。
いつか…出来たら良いな…そしてこんなドジも早く直さなきゃと意気込んだ。
何とか先生が来る前に二人で宿題をすませて、お昼の時間は一緒に食堂で食べたんだ。
ここの学園は小学生でも給食じゃないんだ。
食堂のメニュータブレットを押して、自分の好きな食べ物を注文することが出来るんだ。
お支払いはそのまま電子マネーか現金かを選べる。
こういう仕組みは高校や大学とかではあるかもしれないけど、小学校ではあまり見ない気がする。
いわゆるマンモス校とでも言うのかもしれない。
初等部、中等部、高等部、大学まで続いている所なんだ。
それだけの人数が全部食堂にそろっても、まだ埋まらない程広くて、校内で迷う生徒も居る位だから…
あとは喫茶店とかコンビニとかベーカリー店、お洋服屋さん、魚屋さん、スーパーとかもあって、さながら一つの商店街だ。
弓道場やダンスホール、柔道の道場、大きなグラウンド、森林公園、書店、スタジオ、舞台なんかもある。
遊園地みたいなのもあって、この学園でたいがいのことはまかなえるんだ。
勉強や運動だけじゃなく、お料理や音楽や演劇やダンスや絵が得意な人も居て、そういう専攻科もあるから、そういう人の為にあるのかもしれないね。
私も実は1年生の頃から通っている訳じゃないから全てを把握している訳じゃないんだ。
家庭の事情で遠くの町から4年生の去年入って来たんだ。
だから色んな意味でまだ慣れていないんだ。
太陽くんは転校生仲間でもある、という訳。
同じ本が好きで、転校生だから、気になる存在なのかもしれないね。
私の場合は、歌で特待生として入って来れた。
本も大好きだけど、歌も私の好きなことだから。
時々、歌の発表会をするんだよ。
初等部のうちはまだ組み分けは無くてクラスにまんべんなく色んな所を選んだ子達が居るけど…その後、中学、高校でプロとして育成コースに入るかどうかもまだ選べてないんだ。
育成コースに入ればCDやテレビデビューも出来るみたいだけど…そこまでしたいのかまだ考え中なんだ。
本が好きで司書さんになるのか、歌を歌っていくのか…そのはざまでゆれてるんだ。
ううん…進路を決めるって難しい…よね?
とかいつの間にか食べながら考えてた。
私はご飯は月見うどんを選んで、太陽くんはカツカレーを選んでたんだ。
太陽くんの食べっぷりはさすが男の子という感じだった。
ここの食堂のご飯が美味しいからというのもあるよね。
私はというと…うどんが消化に良かったというのもあり…まだ小腹がすいている。
どうしようかな?また食堂で頼むより…どこか外に出た方が良いのかな?なんて思っているとカツカレーを食べ終えた太陽くんがこっちを見てきた。
同じく食べたりないという感じで。
「…外でまた食べに行く?」
「おう!」
待ってました!とでも言うかの様に食いついてきた。
食べるの好きなのかもなぁ…
じゃあ、宿題や他のお礼もあるし好きな食べ物聞いてプレゼントしようかな?
さりげなく聞いてみよう!
「あ、あの結構何でもあるけど…何が良い?どんなのが食べたいとか…」
「う~ん…食べ物は好き嫌いは無いけど…しいていうなら…今、パンが食べたい…かなぁ?」
パンか…それじゃあ…あそこだね!
「じゃあベーカリー屋さんに行こう!あそこの美味しいらしいんだ!」
「おう!行こうぜ!」
そう言って太陽くんは私の手をつかんで走り出したんだ。
食べてすぐ走れるなんてすごい…!
胃もたれしないのかな?
というか、体力があって、元気だなぁ…
太陽くんは何の専門で来たんだろう?
もう、進路なんかも決めてるのかな?
追いつくのに必死で私も夢中で走ったんだ。
やがてベーカリー屋さんについた。
思った以上の行列だったけど、店員さんがお客さんをさばくのが上手いのかその列はどんどん減っていく。
まるでお店に吸い込まれてるみたい。
そうか…エリートの学校は店員さんもエリートなんだね。
接客のプロというか。
「ゆめどれにする?俺これとこれとこれ!」
私達の番になって、太陽くんはトングをカチカチとさせてすでに何個かトレーに入れていた。
決めるの速いね!
それにやっぱりよく食べる…!
「じゃあそれ全部私が買うよ。宿題のお礼もあるし」
そうしてトレーごともらおうとしたら…
さっと下げられた。
「へ?良いよ!全部俺がしたくてしただけだし…っ」
「でも…それじゃあ私お礼出来ないよ…お願い、一個だけでもおごらせて!」
手を合わせてお願いしてみる。
「良いって!それに、お礼なら…出来ればゆめの手作りが食べたい。」
その表情はどこか真剣で、目が離せなくて。
…へ?手作り?私の…?
どうしよう…まともにお料理したこと…無い。
ベーカリー屋さんのにはもちろんかなわない。
プロの作ったものだからそれはそうだ。
でも太陽くんはプロ級を求めている訳ではなさそうで…
え…いやでもホットケーキならかろうじて…
うう~んと悩んでいると…先に太陽くんが再び口を開いた。
「む、無理なら良いんだ。俺も無茶言った。何言ってるんだろ?俺…」
頭の後ろをポリポリかいて、また手をバタバタしている。
…?時々そういう癖があるのかな?
そんなに慌てなくても別に変なことは言ってないような…
う~ん…っお礼したいのは確かだし…
頑張っても良い出来じゃないかもしれないけど…っ
とにかく頑張ってみようかと思ったんだ。
「無理じゃない…よ。頑張ってみる!それでも…出来が悪かったらごめんだけど…それでも良いなら…」
「…!ほんとか!?ありがとな!」
そう、輝く様な笑顔で言われたら…断ることなんて出来ないなって思ったんだ。
無理かどうかはやってみてから判断しよう。
挑戦すること…そういえば避けてきてたのかもしれない。
思えば…勉強も運動も中途半端で…好きなことも周りに怖じ気づいてまともに出来ていなかった気がする。
挑戦すらしてなかったのに…最初から何でもダメだなんて言えないね。
太陽くんにとってはささいなことかもしれないけど、私にとっては大きな一歩になったんだ。
きっかけをくれてありがとう…!
そう、感謝しながら私達は教室へと向かったんだ。
キーンコーンカーンコーン
授業終了のチャイムがなる。
そうして先生が教室から出て行ったのを確認してから…
私達は目で合図して、図書館へ向かう。
今日の放課後はいよいよ契約を決める日だ。
そういえば、太陽くんの様子昨日とあまり変わらないけど、どうするんだろう?
してもしなくても、このまま仲良くしてくれてたら良いなぁなんて…思っていると、いつの間にか図書館についていた。
「どうしたんだ?入らないのか?」
「あ、入るよ。」
そうしてドアを開けたんだ。
「あれ?おかしいな…」
「どうしたんだ?」
「司書のおばさんがいないの。いつもそこのカウンターに居るのに。どうしてだろう?」
「おおかた用事があって席を外してるだけなんじゃないか?」
「…でもそれでも一言かけてから留守にしてたんだよ。それが他に誰も居ないのにおばさんも居ないなんて…」
用事があったとしても代わりの司書の人や委員会の誰かがそこのカウンターに居るはずだ。
だけど…ものの見事にもぬけのからというか…
人っ子一人居ないなんておかしい。
「…そういえば、昨日もおかしかったよな。俺達以外誰も居なかった…」
私が考えているとそういえばそうかと太陽くんも一緒に考えてくれたんだ。
「うん、昨日は一言声をかけてから席を外してたけど…結局、私達が帰るギリギリまで来なかったし…どういうことなんだろう?」
「普通じゃない…のは確かなのかな。とにかく、昨日の本があった所に行ってみようぜ。あの妖精なら何か知っているかもしれない。」
「そうだね…」
そうして太陽くんが先に本がある場所へと移動して行った。
妖精さん…居るかな?
もう起きてる?
そしてやっぱり停電が起きた。
昨日もあったことだからそう驚きはしないけど…
まるで本が光っているのを見えやすくする為に、見つけてもらいたくする為にそうなるみたいで…
やっぱりこれも妖精さんの仕業なの?
昨日と同じ様に本が光ってる。
でも…昨日と全く同じじゃない…
何だか…元気が無いみたい…
どうして?
「ゆめ…お前見えるか?あの本…」
「一応。でも昨日より光が弱い様な気がする…」
「だよな。俺もそう見える。っていうか蛍の光みたいなぼんやりした感じにしか見えない…」
ビカーッと光っていた昨日とは違い、本はしおれた花みたいに、太陽くんが言う蛍の光みたいにぼんやりとしか見えない。
まるで…本が消えそうな…
「…!もしかして…ほんとに消えそう…なの!?」
「何!?どうして…」
「私達が…契約をのばしたから?」
「まさか…そんな…っ」
と今度は太陽くんが本をガッと手に取る。
「すごく…冷たい…昨日は温かったのに…」
「え!?」
だって本当にそうだった。
まるでお日様みたいに、ホッカイロみたいに手に持つと温かさを感じてた。
それが触ってみると…氷の様に冷たい…!
普通の本でもこんなに冷たくないよ。
どうしたんだろう!?
「妖精さんっ聞こえる!?私、ゆめだよ!太陽くんもいるよ!返事…してっ」
消えないで…っ
そう願うと…本が再び光を放ち始めたんだ。
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