1人が本棚に入れています
本棚に追加
/15ページ
4 消える本のひみつ
「おい、光が…!」
「うん…!」
ついには本が消えそうになったその時、私は泣きそうになった。
だって…本が消えちゃうなんて辛い。
私には耐えられないだろう。
きっと同じく本好きな太陽くんだってそう思うはずだ。
お願い、消えないで!そう強く願うと…
まるで息を吹き返したかの様に、花がまた咲くみたいに、本は徐々に温かさを取り戻していったんだ。
「ふあ~…よく寝た~」
思いのほかまぬけな声を出して昨日の妖精さんが目を覚ましたんだ。
それには思わず目が点になった。
し、心配してたんだよ!?何か…軽い反応に肩がずりっと落ちそうになる。
「どうしたのよ?二人とも…そんなに慌てて…」
「どうしたの、じゃない!びっくりしたんだよ!?もうっ」
さっきまで泣いていたのに、今度は焦りを通り越して、怒っちゃった。
「ゆめが怒った…」
太陽くんが意外そうな顔をして私を見てきたけど…それに構わず私は続けた。
「絶対何か隠してるでしょ!?契約の大事なこと…っ教えてよ!」
だってただごとじゃなかった。
すると妖精さんが申し訳なさそうに言ったんだ。
「…まさか見抜かれるとはねー…私の力も落ちたもんよ…そうよ。契約にはまだ秘密がある。…私達魔法の本は…本を大事にしてる子に出会えないと…消えちゃうのよ。その本まるごと、ね。契約しないとすぐにね。」
「じゃあ一日なんて待ってなくてもすぐにお願いすれば良かったのに!そしたら…」
「だってあなた達はあなた達の生活があるじゃない。本だけじゃない、大事なことはいっぱいある。勉強も運動も…習い事も…お友達と遊ぶことだって。それを…消えちゃうからお願いしたいなんて、一方的過ぎるかもって思ったのよ…」
一瞬図書館がしーんとなった。
だって…それはそうだったから。
本に全て時間を使えれば良い。
だけど、そうもいかない。
子どもだってやらなければいけないことは他にも沢山ある。
言い返せなかった。
私…こんなに本が、物語が好きなのに…
すぐ言い返せなかった。
でも、そのせいで一つの本や一人の妖精さんが消えそうになっているだんて…っ
嫌だって思ったんだ。
「…それでも、黙ってることなんて出来ないよ…」
「ゆめ…ありがとうね。あんたみたいな、あんた達みたいな子に出会えて幸せだったわ…」
「過去形なんてやめてよ…っやだよ…っ」
また本がどんどん冷たくなる。
「…っどうすれば契約になる!?今すぐしろ!俺が警戒したのが悪いんだ!もっと早くしてればこんなことには…!」
太陽くんも必死で繋ぎとめようとする。
「あんたは悪くないわよ。警戒するのは当たり前だし、しなければいけないことでしょ。どうしてそうなるの。もっと自分を大事にしなさいよ。」
「良いから!俺だって本が大好きなんだ!見過ごすことなんてありえねー!」
そう、太陽くんが言った途端に本が赤色になったんだ。
「…契約の言葉言っちゃったのね…じゃあ仕方ないわ。あなたが真の本好きなら…言わない訳ないわよね…今なら引き返せるわ。だから…」
「ここまできてノーなんてありえねー!」
「…そう、じゃあ…「汝、契約を認められたり。名前は太陽。本の為、力を尽くしたまえ。」
「ああ…誓う。」
そう太陽くんが言うと本から魔法の杖みたいなものが出て来たんだ。
これが…そうなの?
本が好き…それが契約の言葉なら…迷わない!
だってそれが本心だから。
「私も…本が大好き!誓うよ!」
「あんたも物好きねぇ…じゃあ仕方ないわね。「汝、契約を認められたり。名前は夢芽。本の為、力を尽くしたまえ。」
今度は本がピンクに光ったんだ。
そうして魔法の杖が私の手元に来て、ぴったりと手にフィットしたんだ。
太陽くんのは太陽のマークが書いてある赤とオレンジの杖。
私のは星のマークが書いてあるピンクと黄色の杖だ。
まるで前から手にしていた様なしっくり感がある。
不思議な杖だ。
これが、私の…私達の魔法の杖?
よく見るとキラキラと何か光っている。
「その光はあなた達の夢の力。子どもらしい純粋な気持ちが、夢がそこにはつまっているの。杖を手にすることが出来るのはそういう夢を持った子どもだけよ。」
「これが私達の…夢?」
「そう、大事になさい。大きくても小さくても夢を忘れてはいけないわ。誰の為とかじゃなくて、自分達の為にね。私達魔法の本や妖精は…そういう子ども達がいないと存在出来ないのよ…難儀なことにね。今の子達は図書館に来ることすらためらう子もいるから…本当は、嬉しかったのよ。あなた達が居てくれて…良かった。騙してしまったようで…ごめんなさいね。」
「騙す…なんて思ってないよ。私…昨日からずっとわくわくしてたの!これからどんなことが起こるんだろうって…いつも挑戦することを諦めてた…でも本の中ならそれが出来てたから…本は私の救いなんだよ!だから消えなくて…本当に良かった!」
「…っゆめ…ありがとう。」
そう言って妖精さんは涙ぐんだんだ。
「俺…一日じゃ契約どうするか決まらなくて…でも必死なゆめを見てたら思い出したんだ。初めて本を好きになった時の…小さい時を。いつでも全力で、いつでも純粋に、無我夢中でページをめくってた時のことを…大好きな本が寂しい時もいつも一緒に居てくれた時のことを。俺…一人っ子で家に帰ったら親も共働きで居なくてさ…一人の時間が多かったから…本は助けだったんだ。」
「太陽もありがとね。そういう子が二人も居て良かった。そうよね、本はいつでもあなた達のそばにいるわ。」
妖精さんは太陽くんにもお礼を言う。
私も親は歌や舞台の仕事で忙しくて、家に居ることは少ないんだ。
それに一人っ子だ。
幼稚園の頃ぬいぐるみをにぎりしめ、パパ、ママの帰りを今か今かと待っていた。
それで寂しくない様にと何冊か絵本を買ってきてくれたんだ。
それはもう、夢中で読んだ。
朝、昼、晩と夢中で。
おかげで本を読んでいる間は寂しさをまぎらわすことが出来、ここまで成長することが出来た。
そうして大きくなってこれたんだ。
絵本から始まった物語は…今も私の中で根付いてる。
「そうだったんだ…私もそうなんだ。手に取った理由が一緒だったんだね。だから…親近感があったんだ…」
「え、ゆめもなのか?」
太陽くんがこっちを見て意外そうな顔をしてそう言ってきた。
いつも楽しそうに見えたのか一人っ子なのと親が家を留守にすることが多いって思わなかったのかもしれないね。
「うん…本が最初のお友達で、最初の救いだったんだ…」
「そうか…そりゃあ気合う訳だな!」
「そうだね…!」
そう言って微笑み合う。
きっとこの出会いは偶然なんかじゃないんだね。
本をずっと好きで大切にしていたから…魔法の本にも妖精さんにも太陽くんにも会えたんだ。
「好き」って気持ちはもうそれだけで「魔法」だったんだね。
やっぱり改めて思う。
本が大好きって!
胸をはって言いたいんだ。
そういえば…
「もう消えなくて良いの!?大丈夫!?」
ふと思い出して妖精さんの体と本を確認する。
妖精さんの体は透けて…無い。
本も…大丈夫…みたい。
「もう平気よ。あなた達の想いが伝わったから。二人の本使いが居る限り、あたしも魔法の本も消えることは無いわ。ありがとうね…!これからよろしく。ゆめ、太陽。」
そう言ってにこっと笑ったんだ。
「おう、よろしく!」
と太陽くんも笑う。
「よろしく…」
私もそう言って笑おうとしたけど…安心したからなのか一気に力が抜けて、へなへな~と床に座り込む。
「お、おい…ゆめ?大丈夫か?」
太陽くんが心配して声をかけてくれる。
その声が優しくて、妖精さんの気遣う様な目線が温かくて、涙がぶわっと出てきたんだ。
「わ~ん…良かったよぉ~…き、消えちゃうかと思った…もうお話し出来なくなるかって…っずっと我慢してたのにぃ~…ぐすっ…わああ~…」
ぱたぽたと自分の目から涙が出ているのが見える。
どん引かれるかと思って私は外ではあんまり泣かないけど、本当は家では結構な泣き虫だ。
それが耐えきれなくなる位だから、私にとって相当な衝撃だったのかもしれない。
最初のコメントを投稿しよう!