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5 現れた謎のお兄さん
耐えきれず泣いてしまった後に、何も言わずに見ていてくれた太陽くんは落ち着いてからそっとハンカチを渡してくれた。
タンポポみたいな薄黄色のハンカチ。
すごく綺麗な色だったから汚しちゃ悪いかなって思って受け取るのをためらっていたら…
ん!と押し付けられた。
「でも…汚れちゃうよ…」
「良いよ。別に気にしないから。良いから使えよ。」
「…あ、ありがと…」
使ったら洗濯して返そう。
すごく優しい子で素敵だなぁと思う。
見習うべき点が多い子だ。
自然とお友達のことを考えて、行動出来るのって本当にすごい。
綺麗な心を持っているんだと思う。
それからさらに落ち着いて…
涙もすっかりかわいた頃、妖精さんが口を開いたんだ。
「驚かせてごめんなさいね。あたし自身もこんなに早く力が落ちてるなんて思わなかったのよ…まさかすぐ消えそうになるなんて…何かが起こっているのかもしれないわ。魔法のパワーを吸い取る様な何かが…」
「吸い取る?」
「ええ…そうでないとおかしいのよ。あんなに早くパワーが底をつくなんておかしいわ。」
「誰かがそうしてるってことか?」
太陽くんがいぶかしむ様にあごに手を当てて考えている。
え?誰かって誰?
「…そうかもしれないわ。もしかして…恐れていることが起きたのかも…」
するとその声に反応するかの様に本達がぶわっと浮き始めた。
「なっ何これ!?どうなってるの!?」
「本達が怒っているのよ!やっぱり…!契約をしていない誰かがこの魔法の本の力を使っているんだわ!」
「誰かって…どこに居るんだ!?」
周りを見渡せど、誰も居ない。
本達が私達を守るかの様にバリケードを作ってくれているみたいに見えた。
何!?何があるっていうの!?
とっさにさっきもらった杖をにぎりしめる。
すると…くくく…と笑う声が聞こえた。
私達からすぅっと影が伸びて、そして広がった。
広がって…そして人型になったんだ。
人型はさらに人間へと姿を変えた。
黒い服を着た二十代位の若いお兄さん。
髪の毛は銀色で目は紫に見えた。
外国の人…?
「だっ誰だ!?お前…っ」
太陽くんがいち早く異常事態に気付いてさっと私の前に出る。
「バレちゃしょうがないね…そうさ、僕がこの魔法の本の力を使っている。名前は言えないけどね。君達子どもにはあり余る代物だ。僕に渡した方が身の為だと思うけど?」
そう言って名無しのお兄さんは、なおも自信満々に挑発?してくる感じ。
何だか嫌な印象を持ったんだ。
何かを企んでいるみたいな。
「あんたが…っよしなさい!何も知らないでこの魔法の本の力を悪用する様なら…っひどいことになるから!あたしだって黙っちゃいないわ!」
そう言って妖精さんが沢山の光った本の形を作ってお兄さんに向かって飛ばしたんだ。
「おっと。その力もいただこうかな。」
すると銀色の銀貨を出して、吸い取らせたんだ。
もしかすると…この銀貨が魔法の力を吸い取ってる?
それで沢山の本達が怒っているなら…妖精さんが危ないなら…ってそのお兄さんに飛びかかっていたんだ。
「な…っ!?」
お兄さんが驚いて体制を崩した。
そこを狙って首から下げている銀貨に手を伸ばす。
これが無ければこの人は悪さは出来ないはず!
そう思って…無我夢中で…
「く…っやめろ!このガキ!」
しばらく奪うか奪わないかの争いになっていたけど、年上のお兄さんに力で敵うはずもなく…
とうとう肩をつかまれ、突き飛ばされた。
「きゃ…っ!?」
すごい力で本棚の方に頭をぶつけそうになる。
体勢が整ってないから…このままぶつかってしまう!
そう思って目をつぶった…その時…
太陽くんの杖から何かが飛び出してきたんだ。
ふかふかの…これは…バルーン?
幼稚園の時、お遊戯で使ったことのあるそのカラフルな模様には見覚えがある。
そのバルーンのおかげで私は頭を本棚にぶつけなくてすんだんだ。
また…助けられちゃったね…
「ありがとう…」
「ったく無茶すんなよな。成功したから良かったものの…」
はー…とため息をつく太陽くん。
どうやら魔法の杖でバルーンを出して助けてくれたみたいだ。
使い方もまだ分からなかったのに、さすがコツをつかむのが早いね!
もしかして…本の魔法だから…想像力が原動力…とか?
なら私も出来るかも!?
えーと…悪者?を捕まえる時は…
大きな…網!
「網よ、出ろー!」
と思いっ切り叫んだんだ。
するとぶわっと杖から大きな網が出てきた。
それをお兄さんにかける。
「ぶわ!?なっ何でお前らがそんな力を…っ」
お兄さんはまさかそうなるとは思ってなくて、必死で網の中でもがいてる。
太陽くんのバルーンを見て、借り物競争の時を思い出したんだ。
あれ…結構大変なんだよね…現役小学生の私達でも大変なのに体の大きなお兄さんではもっと抜け出るのが大変だと思う。
それも特大のだし。
ぜーはー言いながら疲れているみたい。
そして、再び銀貨をかざして私の出した網を吸い込んだんだ。
だけど、それにも限度があるみたいで全部は吸い込めなかったみたい。
私達の魔法も一日三回だし、そっちの魔法?も限度があるのかもしれない。
「お…覚えてろー!」
へろへろの声で捨て台詞をはいて逃げている姿は、とても余裕を出していた人物とは思えなかった。
「何だ…あいつ…」
太陽くんは呆れている。
私達がもう魔法を使えると知らなかった?
というかそう思わなかったということは…杖見えなかったのかな?
そして残りの二つ残っている魔法で図書館の本の片づけと、壊れた箇所の直しをしたんだ。
ほんとに何でも使えるんだね…この力…
これなら何かを企む大人が出てきてもおかしくないのかも?
「…さっきの奴何だったんだよ?妖精は知ってるのか?」
「いいえ、ただ…悪い奴らは前にも居たの。この何でも出来る力を使おうとするやっかいな輩がね…だから用心はしてたのに…まさかあたしが眠っている間にここに忍び込んでいたとはね…しくじったわ…」
妖精さんがくやしそうにそう話す。
「じゃあ人が来なかったのもあのお兄さんがやったの?」
と私が質問する。
この図書館に入った時全く人が居ないのが気になったんだよね…
「それはあたしよ。魔法を使うの人に見られちゃまずいでしょ?だから人避けの魔法を使って来ない様にしているのよ。」
と妖精さんが答えてくれた。
「な…なるほど…徹底してるねー…」
と感心してしまう。
だけど…それを乗り越えて来てしまうあのお兄さんもやはりただ者ではないんだろう。
子どもだからと手加減してくれる感じでもないし…
「というか…その妖精さんっていうのよそよそしいわ。名前で呼んでちょうだい。」
あ…そうか…そういえばずっとそんな感じで呼んでたね。
何て呼ぼうかな?えーっと…
「じゃあライちゃんって呼んで良い?ライブラリーだから。」
「ライ…ちゃん?初めて呼ばれたわ。良いけどね。」
とぷいっとあっちを向いてしまったけど、横顔を見ても分かったんだ。
口角が上がってて、喜んでくれてるって。
「じゃあ決まりね!太陽くんは何て呼んであげるの?」
「…!俺は…そのままライブラリーって呼ぶよ。なんかちゃん付けはガラじゃない気がする…」
「そうね、いつもそうだからそっちの方が慣れてるわ。…でもごめんなさいね。まさかあんなのが居るなんて…危ない目にわせるつもりなんて無かったのに…」
くてっとしてしゅんとする姿が何だか寂しく見えたんだ。
「でも悪いのは悪い事を企む人達だよね?ライちゃんは悪くないから気にしないで良いよ!太陽くんのおかげで怪我も無かったし…魔法も即興で使えたし…」
そうだ!悪いのは企む人達。
ライちゃんは自分の使命を頑張ってるだけだもん。
「ゆめ…ありがと。でもあなたも結構うかつだったわよ。」
へ?お叱り?
「そうだよな!自分の身を顧みず飛び込むなんて危険だ!」
と太陽くんも続く。
…そりゃ…そうか…
私あのまま本棚に頭をぶつけてたら…どうなっていたか分からない。
怪我をしていたと思う。
二人が怒るのは当然のことだ。
「ご…ごめんなさい。私…本やライちゃんのこと思ったら…気が付いたら体が先に動いてた…」
謝るしかない。だって危険だったのは事実なんだもの。
「はぁー…意外と考えるより動くタイプなんじゃねぇか?お前…」
う…そうなのかな?
行動力無いと思ってたけど、実はストッパーがかかってただけ?
気を付けよう…
「俺が見てないと危なっかしいな!絶対に一人で行動するんじゃないぞ!」
「はい…」
「そうよ!まずああいう輩は何するか分からないから一定の距離を取るのよ!」
「はい…」
そうしてしばらく二人にレクチャーを受けてたんだ。
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