6 初めてのクッキング

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6 初めてのクッキング

契約をしたライちゃんを私が代表で家であずかることにした。 こんなことを言ったらライちゃんにまた怒られるけど… 見た目はぬいぐるみというかマスコットくらいの大きさしかないから、私が持っていた方が不自然じゃないかもしれないとの太陽くんの提案。 そうかな?太陽くんが持ってても可愛いけどな。 とにかく、パパ、ママが居る時はぬいぐるみのふりをしてもらえばオッケーだ。 今日は土曜日で学園は休みだ。 だから挑戦してみようと思う! マフィン作りに! そう、約束してたことを実行するんだ。 いつもお世話になっているせめてもの太陽くんへのお礼だ。 …お礼になるかは出来を見ないと分からないけど。 私はあんまりお料理が得意じゃない。 というかしたことすら少ない… 家庭科で少しはするけど、班でだし…家だとママとするし… 一人でしたことは無い。 …でも太陽くんには、一人で作ったのをあげたいなって思ったんだよね。 それでレシピ本を見ながらさっきから悪戦苦闘中。 ママはひさしぶりに帰って来て、何か無い様にすぐ近くのリビングに待機してくれてるけど… 焦がしたり、生焼けだったり…とまさにお約束なんだよね。 この間ベーカリー屋さんに行った時に分かったことなんだけど、太陽くんはチョコが好きみたいだったからチョコのマフィンをプレゼントしよう!って思ったまでは良かった。 だけど…こんなに色々工程があるなんてね… パティシエの人やシェフの人は本当にすごい…! 毎日お仕事でこういうのだけじゃなくて、ささっとケーキやクッキー、プリンとか沢山作れるんだよね。 何度やってみても失敗… どうしよう…生地がもったいないよね… そうしていると…見知った顔がキッチンの窓から見えたんだ。 あれは…委員長? 黒髪のゆるいおさげに眼鏡をかけている女の子。 園田美晴ちゃん。通称委員長。 クラスの中でも秀才で通っている頭の良い子だ。 どうしたんだろう?あんなに急ぐこと…あんまり無い…よね? 一度クッキングを中断して見守る。 すると、べちゃっとこけてしまった。 ああっ平気かな? ちょっと涙目だ…! こうしちゃいられない! 「ママ、ちょっと出かけて来るね!クラスの子がそこに居るの。」 「分かったわ。火とかは消していきなさいね。」 「はーい。」 そうして火の元確認してから私は外に出たんだ。 委員長がこけていたのは家の目の前。 気になってクッキングが出来ないし、傷の手当てしなくちゃね… 「委員長!」 「!?未知野さん!?どうして…」 委員長は私が来て驚いてるみたいだった。 でも名前は知ってくれていて、話しかけてくれて、何だか嬉しかったんだ。 クラスではそういう雰囲気じゃないし、話しかけれないもんね。 「ここ、私の家なんだ。足…大丈夫?」 「ああ…それで…ええ、だいじょ…いたっ」 立ち上がろうとしてまたよろめいた。 どうやら足が痛いらしい。 見るとひざに大きな傷が出来ていて…血が出ていたんだ。 あちゃー…これは痛いね… 「立ち上げれる?無理か…じゃあちょっと待っててね。すぐ戻るから!」 「…?」 そうして家にばんそうこと消毒液を取りに行ったんだ。 戻ってきて早速、傷の手当てをする。 「手慣れてるのね…」 ほぉーと感心してくれている。 何だか気恥ずかしい。 「私、ドジで結構こけるんだよね…だから自分で傷の手当ても覚えたの。はい、これでおしまい!」 「ありがとう…」 そうしてお礼を言ってくれて何だかくすぐったい気持ちになったんだ。 「どうしてそんなに急いでたの?珍しいよね?」 委員長はいつも慎重で急ぐような性格では無さそうなのに。 「……あの、ね。誰にも言わないでほしいんだけど…」 「?うん?」 「新しく出来たカフェあるでしょ?あの駅前の…」 「あー…あったね。それがどうかした?」 「そこのケーキが美味しくて、勉強の息抜きに行ってたの。そうしたら…」 「うんうん。」 うなずきながら委員長の話を聞いていた。 なかなか本題に入ってくれないな。 どうしたんだろう? それに誰にも言わないでほしいって? 「新しい店員さんが入ったの。二十代前半位のお兄さん。…それで勉強のことを相談していたら仲良くなって、今日まででお仕事辞めるって聞いたから…お礼にと思ってクッキーを焼いてきたんだ。でも…それも…もう、こんな足じゃ…間に合わないよ…っ」 委員長のかしこそうな瞳から涙が少しずつ、少しずつ出てきている。 本当に仲良しだったんだと思う。 だから一生懸命にクッキーを焼いたんだと思う。 そんな気持ち何故か分からない訳ではなかったから… 後押ししてあげたい!って思ったんだ。 「なるほどね…その気持ち、届けようよ!待ってて、今何か良いもの持ってくるから!」 「…え?どうやって?」 委員長がこれ以上何か言う前にあわてて私は家に再び入った。 そして部屋に行って魔法の本を開ける。 すると杖が出てくる。 ライちゃんは契約した後はずっと部屋にいられるみたいで、どうしたの?と言って来たんだ。 「クラスメイトが困っているの!だから助けようと思って…」 「…誰にも見られない様にしなさいよ?」 「ラジャー!」 そうして敬礼する。 「えーっと…早く走れるキックボードよ、出ろ!」 私が杖を振りかざしてそう叫ぶと杖からキックボードが姿を現した。 「これなら早く行けるよね!?行ってきまーす!」 「いってらっしゃい。」 ママにも出かけると言って委員長の元へ急いだんだ。 「これで行けば大丈夫だよ!ほら、乗って!」 「でも…二人乗りはダメなんじゃ…」 「それは多分自転車だよ!…多分。ね?行こうよ!」 「う…うん!お願い!」 「分かった!」 そうしてキックボードに二人とも乗ったんだ。 「しっかりつかまってて!」 「うん…」 委員長は私の腰のあたりに手をそえてきた。 よぉし!全速前進! 思いっ切り地面をける。 そうするとぐんっと風が巻き起こり、みるみるうちに人を追い越して駅前へ向かうことが出来たんだ。 委員長はあまりの速さにびっくりして少し目を回していたけど… すごい速さで駅前のカフェに着くことが出来たんだ。 「ここ…?」 「ええ…ありがとう。」 そうしてまだもじもじとしている。 「ほら、早く!時間無くなっちゃうよ?」 とんっと背中を押してあげる。 「う…うんっ」 そうして委員長は意を決してカフェへと向かったんだ。 カフェの店員さんの二十代前半位の男の人が委員長と仲良さそうに話している。 それで…無事、クッキーを渡せたみたいだ。 そして委員長が嬉しそうに戻って来る。 「ありがとう!未知野さんのおかげで渡せたわ。本当にありがとう。」 そう言う委員長は今まで見た中で一番可愛いなって思えたんだ。 頑張って良かった…! 「そんな…私こそ話してくれてありがとう。前からみんなと話ししたいと思ってたからまた夢が叶ったよ。」 「また?」 「ううん、こっちの話だよ!」 危ない、危ない、太陽くんのことを話したら魔法の事までしゃべってしまいそうになる。魔法のことは他の人には秘密なんだから。 また危機感無いって太陽くんにもライちゃんにも怒られちゃう…! 「私…今までね、友達なんてって思ってたの…勉強に必要無いものって思ってたの。いつからかは分からないけど…でもね、そうじゃないんだね。私…未知野さんと友達になりたいって思えたの。こんなの初めて…駄目かなぁ?」 またもじもじと恥ずかしそうに委員長はそう話してくれた。 「…っ私もそう思ってたんだ!委員長と…お友達になりたい!って」 今の私の顔、きっと笑顔だ。 だってすごく嬉しいんだもん! 「未知野さん…ありがとう。ううん、夢芽ちゃん…だよね?」 「うん。そうだよ。」 「そう…呼んでも構わないかなぁ?」 「もちろんだよ!私も委員長じゃなくて…美晴ちゃんって呼んで良い?」 「もちろん!これからも…よろしくね?」 「うん!よろしく!」 そうして私と委員長、ううん美晴ちゃんはお友達になれたんだ。 楽しそうに話して帰って行く私達を見て、吐き捨てる様な言葉を言っている人が居たのを私達は気付かなかったんだ。 「友達なんて…くだらない…そんなものは…何も得やしないんだ…っ」 ゴミ箱にバキボキに折れているクッキーが捨てられているのも…私達は気付かなかった。 家に委員長…じゃなかった美晴ちゃんと帰って来て、私達はすっかり仲良しになり、一緒に家でマフィンを作れたんだ。 今度は…形の悪いものでもなく、生焼けでもなく、美味しそうに出来たものを。 美晴ちゃんは誰かにあげるなら…ちゃんと渡せると良いね!と励ましてくれた。 そうだ、せっかく出来たんだから渡したい。 お礼だし… でも…何だか緊張してきたよ…! 太陽くん…受け取ってくれるかなぁ? とりあえず、明日の日曜日、ラッピングしたマフィンを渡すことにしたんだ。
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