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7 ドキドキのプレゼント
すーはーすーはー…
息を整えてみるけどやっぱり緊張する。
今日は太陽くんにチョコマフィンのプレゼントを渡す日。
休日の日曜日の午後一時。
何度も何度も渡すシミュレーションをしてみたけど、太陽くんの性格なら喜んでくれるかもしれないのは分かるんだけど…何故か緊張して足が前に出ない。
ドキドキがおさまらない。
こんなの、初めてだ。
学園で発表をする時も緊張するけど、それよりももっと緊張するのは何故なんだろう?
どうして…こういう落ち着かない気持ちになるんだろう?
思えば…太陽くんと居る時は家族で居る時みたいな、ううん…それ以上の安心感すら覚えている。
会って数日なのにね。
前から知っているみたいな…前から仲良かったみたいなそんな感じが。
安心感があるのにこんなに緊張するなんて…何だかアンバランスだ。
こういう気持ちは何ていうのか今まで十年生きてきた中で感じたことがあったか記憶を思い出してみたけど、やっぱり無かった。
本をいつも以上にいくつも見てみたけど、「答え」にたどり着かなかった。
ライちゃんに聞いてみたけど、はーんとした顔をしてから…それは…あたしから言わない方が良いかもねぇ…でもそうか言われてみればそうかもねぇ…あんた達仲良いから…と言われたんだ。
仲良いって言われたのには嬉しかったけど、同時に何だか心の方がほんわり温かくなったんだ。
もっと難解になったかも。
あの気持ちも何だったのか…今の私にはよく分からなかったんだ。
「それにしても…太陽くん遅いな…私時間、間違えちゃったかな?」
ピンクと白と黄色の星マークがついた腕時計を見ながらそうつぶやく。
時刻は午後一時十分。
約束の時間を十分過ぎている。
太陽くんは約束をやぶるタイプじゃなさそうなんだけどなぁ…
じゃあ何かあった?
何かって何!?と今度は焦りが出てくる。
太陽くんと居るとどんどん知らない自分の感情が出てくる。
まるで新しい本を、物語を見つけた楽しさやハラハラ感の様に…
太陽くんと話しているといつも楽しいし、ドキドキするし?、彼に何かあったと思うと突然ひやっとなる…
何かあるとすれば…怪我…もしくはあの怖いお兄さんに捕まったとか!?
私達の共通の話題…それは物語の共有だけではなく…
「魔法の本使い」という大事な役目が。
魔法の本を守り、本をずっと大好きでいて、維持していくっていう役目が。
その役目自体は光栄だ。
本が大好きってこと、認められたのが嬉しくて、それが仲が良いと思っている太陽くんと一緒に出来ることが。
昨日は委員長…もとい美晴ちゃんを助けることが出来たし。
魔法は一日三回使えて、その力は自分達を守る為や、人の役に立てたり出来るんだよね。
それも嬉しい。
だけど…その便利な魔法の力を狙う謎の人が現れたんだ。
それがあの怖いお兄さんという訳。
二十代位の…
…あれ?
そういえば…美晴ちゃんと一緒に居たあのお兄さん…
髪の色は違ったけど…同じ年位だし…何だかあの怖いお兄さんに似ていた様な…?
でも、怖い顔じゃなくて、笑顔でいたから…違う、とは思うけど…
何だかひっかかったんだ。
…それは一旦置いておこう。
まずは太陽くんだ。
しっかり者で活発な太陽くん。
何をするにもまずは一旦考えるし、危なそうであれば私の事も守ってくれる程しっかりしているから…
運動も勉強も出来る彼は下手な人に捕まる感じにはとても見えない。
何かあったとすればあの魔法の力を狙う怖いお兄さん以外敵らしい敵は居ない。
どうしよう…そう考えているうちに十五分…二十分と時は過ぎていく。
おかしいよ…学園で待ち合わせをした時も彼は五分とだって遅刻はしない。
プレゼントをきゅっと握りしめる。
一度家に帰ってライちゃんを呼んできた方が良い?
でもその間に来たら…
そうこうしているうちに…
キラッと目の前が光った気がしたんんだ。
いや、気がしたじゃなくて…光った。
この七色の光は…
ぽんと音を立てて、ライちゃんが現れたんだ。
「ライちゃん!?」
「ゆめ、太陽はどこ?」
「え…今待ち合わせた所で…でも来ないの!こんなに遅れたことないのに…っ」
「…やっぱりね。本に反応があったの。あんた達はあたしや魔法の本と契約しているから何かあれば分かるのよ。本が光るの。ゆめはピンク、太陽は赤に光るのよ。さっき赤に光ったから…慌てて来てみれば…っ」
ライちゃんも焦っていたんだ。
やっぱり太陽くんが来ないのは何かあったんだ。
「ど、どうしよう!?ライちゃんっ」
冷や汗がぶわっと出てきた。
「落ち着きなさい。太陽の場所を見つけるのよ。人手はあたしがいつもの様に追っ払ってあるわ。心置きなく探しなさい。そう、空を飛んで探すのよ!」
ライちゃんは自分も焦ってはいるけど、こんな時でも私を安心させてくれる程頼もしい。
さすがは魔法の本の妖精さんだ。
良いアイディアもくれた。
そう、歩いて探している暇は無い…気がする。
なら、空からなら…一発で探すことが出来る…かも!
そうだ、飛ぼう!
こんな時、高所恐怖症じゃなくて良かったと思う。
まぁこんな時は普通の人には無いか。
とにかく、飛ぶには道具がいる。
こんな時は決まっている。
そう、魔法使いの移動手段として正統派な…
「魔法のほうき」っていう手段が。
「魔法のほうきよ。出ろー!」
私がそう言うと、杖からほうきがぽんと出た。
ほうきと言っても学園で使っている掃除用の小さなやつじゃない。
人一人、というよりも二人位余裕で乗せれる大きなやつを。
それにまたがって即座に浮かぶ。
「飛べー!」
要領は分かっている。
いつもこういう本を読んでいたおかげで想像力は人一倍ある。
魔法使いはいつもこうして地面をけって、飛べと命令するんだ。
私の想像通り、そうすることで見事私の体ごと浮かんだんだ。
「ゆめ、行くわよ!」
「うん!」
ライちゃんの掛け声と共に私は先を進んだんだ。
上空から町を見渡す。
だけど、あの目立つ赤茶色の髪は見当たらない。
建物の中…といっても住宅地しかここ一体には無い。
町の…中…には居ない?
だとすれば…あとは気になるのは山の方と…
海の方…のどちらかだけ。
どっち!?
どっちなの!?
「ゆめ、魔法のコンパスを出しなさい。」
「え?何!?魔法のコンパスって…」
「良いから魔法のコンパスを出ろと叫びなさい。」
突然のライちゃんの言葉にびっくりはしたけどこれも何かの秘策なのかもと思ったんだ。
言われた通りにしよう。
「魔法のコンパスよ、出ろー!」
するとピンクと黄色のキラキラしたコンパスが出てきた。
これは…普通のコンパス…にも見えるけど…
デザインが可愛いな。
「これが何?どうすれば良いの?」
手にしてみる。
「それを使って太陽を探すの。太陽を頭に思い浮かべなさい。するとコンパスがどの方角に太陽が居るか指し示すはずだわ。やってみなさい。ゆめなら出来るわ!」
これを使って…太陽くんを!?
私なら…
うん、出来るかもしれない!
お友達を探すの!
大事な太陽くんっていうお友達を!
また息を吸う。
息を整えて、太陽くんを思い浮かべる。
爽やかな笑顔、私を守ってくれる頼もしい姿、元気そうな…彼の姿を。
無事でいて!
そう強く思うと、コンパスが光ったんだ。
コンパスの光るキラキラした針がビシッと指し示したのは…
海の方だった。
そうして光る針がそのまま光を指し示して…伸びた。
このまま居場所を指し示してくれるんだ!
ありがたい、これなら場所は丸わかりだ!
「分かった、分かったよ!ライちゃんっ」
「よし!良くやったわ。海の方ね。行きましょう!」
「うん!」
ライちゃんとうなずき合って光の指し示す場所、海の漁港の方に向かったんだ。
この先に太陽くんが居る!
それで無事助けて、大丈夫だよって安心させて、感謝のプレゼントを渡すの!
ハラハラドキドキしながら私はライちゃんと漁港に魔法のほうきで進んだんだ。
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