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8 太陽くんを見つけるまでは
漁港に着いた。
そこにも一般の人はおらず、ライちゃんの人避けはちゃんと効いている。
だけど…グレーの中くらいの船の中に人影を見た気がしたんだ。
サングラスをかけた…黒い服の人達。
それが何人か居る。
あれは…何?
あの服に似たの私どこかで…
あっ学園で見た謎の怖いお兄さんの服と似てるんだ。
黒い服…っていうかスーツかな?
この季節の陽気に似つかわしくない暑そうなごてごてとしたスーツだ。
動いたら暑いこの季節に…スーツを着込んでるなんて…暑くないのかな?
でも、手足が何だかぐねぐねして見える気がするのは…何!?
もしかして…人間じゃ…ないの!?
じゃあ何!?
あいつらが魔法の本の力を狙っている敵…だとしたら…
あいつらに太陽くんが捕まった!?
そうだとしたら…何されるか分からなくて危険だ!
相手も魔法の力を盗んで使ってるんだから。
とにかく、あの船に乗り込まなきゃ!
コンパスから光を一旦消す。
バレかねないからだ。
これは自由自在に出来るみたい。
また見つける時に、光らせれば良い。
それまでは閉じておこう。
太陽くんを見つけるまでは…油断は出来ないから。
とにかく、無事で合流する。
それが先だ。
「どうやったら知られずに…あそこまで行けるかな?あっ透明人間になれば良いんだ!」
「ナイスアイディアね!…でもあんた魔法の力は三回まで…失敗しない様にね。太陽はまだ魔法の力を一度も使ってないはず。その力を使えば逃げれるとは思うけど…絶対に、絶対に油断しちゃ駄目よ!」
「分かってるって。」
そう小声で話す。
そう、一日三回までしか使えないのは…三枚のお札と一緒だね。
制限があるのはそれだけ魔法にも色々あるってことなんだろう。
無限に出来ればどうなるか分からないから制限を設けてるのかも。
私が今日使ったのは魔法のほうきとコンパスで二回。
そして透明人間になるには三回、となる。
なら…無事で太陽くんに合流しなければ敵に見つかってしまえば…これほど危険なことはない。
敵というだけあって、奴らは魔法の為なら何でもしそうだ。
子どもでも容赦は無いことはあのお兄さんの件で分かってる。
そして透明人間になるってことは太陽くんにも見えないのだ。
私の姿が。
どう気付いてくれるかは分からないけど…ちゃんと伝えられたら…良いな。
ボオーッ
そうこうしているうちに船の汽笛が鳴った。
出航するんだとしたら…まずい!
早く助けないと!
「じゃあ私頑張るね!」
「くれぐれも気を付けるのよ。」
こくんとうなずき、ライちゃんには念の為上空に残ってもらった。
敵はライちゃん自身を狙っているから。
無理な行動はこれ以上させられない。
透明人間になれ!と叫び、姿を消した私。
手も足も顔も体中全部消えているのを確認し、いちにのさんで船に向かって飛び出した。
その敵には気付かれていない。
意味の分からない言語でしゃべっているからよく分からないけどこっちを全然見ていないから気付いてはないみたいだ。
よし!と私にも見えないけど、ガッツポーズをしたんだ。
船内に入ると物はあんまり置いてなくてガランとしていた。
若干ほこりくさい…かな?
あまり使われてない船なのかな?
この船を使っても大丈夫なのかな?
壊れたり…なんかして…と思っているとズボッと床の一部が抜けた。
そこから海水が少しあふれ出す。
えー!?ど、どうしよう!?
私壊しちゃった!?
沈む前に早く太陽くんを見つけないとやばいことになる!?
慌てて手でおさえるけど…海水の勢いは止まらない。
水の力ってこんなにすごいんだ…
うう…どうしよう!?
とにかく…今はごめんなさい!
こうして抑えていても仕方ないから…
太陽くんを早く探すことを優先したんだ。
船内の部屋を一つ一つ調べるしかない。
開けては閉め、開けては閉めを繰り返す。
そうしてコンパスがもう一度淡く光ったんだ。
一番奥の…物置みたいな部屋を指し示していたんだ。
「た、太陽くん!?居る…?」
落ち着いて、その部屋のドアを開ける。
ギギギ…
壊れそうなそんな音を立て、ドアが開く。
突然ぶわっとほこりが舞う。
やっぱり一番ほこりっぽいということは物置なんだな。
「ぶわっ…」
思わず口を覆う。
ほこりをかき分けて前に進む。
すると……手足を縛られ、口をふさがれた太陽くんが寝かされていたんだ。
ひどい!こんなことをするなんて!
やっぱり悪い奴らなんだ!
平気で何もしていない子どもを縛るなんて…
気絶している太陽くんがピクっと体を動かした。
そうして塞がれていない目を開いた。
最初はうつろな目だったけどだんだんと焦点が合ってきているのが分かる。
でもかろうじて怪我はしていないみたいだ。
慌てて口のタオルと手足の縄を取ったんだ。
「ゆめ…?」
「私が分かるの!?」
「姿は…いてて…見えねーけど、ゆめな気がする…チョコの匂いがするから…もしかして俺の為にチョコのスイーツ作ってきてくれたのか…?」
姿は見えない。
でも、何となく分かってくれたんだ。
私だって。
チョコの匂いで。
プレゼントを渡すって言っただけでチョコのとは言ってない。
だけど、何となく気付いてくれてたんだ。
それがまた嬉しい。
「そうだよ…!ゆめだよ。約束通り太陽くんの好きなチョコのマフィン作ってきたんだ。プレゼント…やっと渡せるって…思ってたのに…っ」
そこで涙が出たんだ。
透明になってるのに私だって分かってくれたこと、太陽くんが無事であったこと、やっと念願のプレゼントを渡せるって…思ったら急に…
泣くつもりなんてなかった。
「…?ゆめ?大丈夫か?」
太陽くんの頬に涙が落ちたのかもしれない。
泣いてるのに気付いてくれた。
心配なんてかけたくないのに…
今こそ私が大丈夫だよ!って言ってあげるべき状況なのに…
「だ、大丈夫…でも無事で良かったって…思ったら急に…っぐすっごめん…こんなこと巻き込んで…」
私の顔を探してさまよう手。
やがて、その手が私の頬に届く。
そして涙がぬぐわれた。
「大丈夫、無理しなくて良いんだ。悪いのはお前じゃない。それに俺は好きで本使いの道を選んだんだ。ゆめが何でも気にする必要は無い。俺の方こそ心配かけて…ごめんな?」
こんな、時でも自分じゃなくて私の事を考えてくれるんだ…
私、泣いてばっかりじゃ駄目だ。
泣くんじゃなくて、勇気を出して立ち向かうことも大事なんだ。
私、今こそ太陽くんを守りたい!って思ったんだ。
守れるなんておこがましいかもしれないけど…
出来ることはしたい!
敵から太陽くんを守ることはしないと!
太陽くんは不思議な子だね。
私にいつも勇気をくれる。
涙をぬぐわれただけじゃなくて…その優しさで恐怖すらもぬぐってくれたんだ。
大事な、私の初めてのお友達。
助けたい、守りたいよ!
「ゆめ…?」
しばらく言葉を発しない私を心配する声がする。
そんな優しさが素敵で頼もしくて。
どこまでも勇気が出るんだね。
「大丈夫!今度こそ、私が太陽くんを守るね!」
「!?どういう意味!?」
何故か顔が赤くなっている太陽くん。
とにかく今は無事にここから脱出すること!
気付かれない様に!
「太陽くん、いつもありがとうって意味だよ!とにかく、魔法の力…残ってるよね?」
「ああ…今日は一度も使ってない。」
「その力で太陽くんも透明人間になって!とにかくバレない様に抜け出ることが大事。この船は古いみたいだからそのうち沈んじゃう。その前に気付かれないうちに早く!」
そうして太陽くんの手を取ってつないだんだ。
お互い透明になるから見失わない為だ。
太陽くんは一瞬ビクッとしたけど…すぐに状況を理解して冷静になった。
「ああ。分かった。透明人間になれ!」
そう唱えると太陽くんの体も透明になったんだ。
「行こう!」
「待て。そのままじゃまた捕まる。だから魔法で盾も出しておこう。奴ら武器を持っていたらまずいからな。」
「そっか!でも盾じゃ見えない?」
「あ…それもそうか。」
見えなくなるのは体だけだから武器までは消すことが出来ない。
となれば…
「バリアは…どうかな?シャボン玉みたいなのをイメージして私達を覆(おお)うの。それなら見えにくいかも。」
「なるほど、やってみるか!」
うんとうなずき合って、やってみたんだ。
バリアは本当にシャボン玉みたいでぶよぶよと触れる。
でも試しに拾ったゴミをバリアに向かって投げても跳ね返せている。
うん、これならいける!
これでとりあえず見えない様に移動しながら攻撃が来ても跳ね返すことが出来るはずだ。
太陽くんは待ち合わせ場所の公園に行く途中にあいつらに見つかって捕まったとさっき聞いた。
公園は私達の家まで離れていて、さすがに私達の家までは知られていないだろうからどちらかの家まで帰れればそこは安全地帯なはずだ。
だって、知られていたら家に押しかけてくるはずだから。
それをしないで偶然出かけていた所を…となると本当に知らないらしい。
ただ、学園に侵入していた所を見ると学園は安全とは言えない…かも。
残念ながら、人間の普通の警備員さんでは訓練を受けていても魔法には敵わないからだ。
私達が魔法で何でも出来る様に敵も何でも出来てしまうから…それが厄介だ。
自分達の家を知られない様にするのと、学園や移動中に何も無い様にするのが当面の目標…かな。
待ち合わせも気を使った方が良いのかもしれない。
学園内か外にして、とりあえず家周辺は避ける。
二人行動やライちゃんを連れて決して一人にはならないことだ。
とりあえず今は船内から無事脱出しなければ!
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