人生で初めての恋

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 今日の天気は快晴。何かいいことがありそうな予感がする。 僕は自転車に乗り、颯爽と街中を駆け抜けていた。 彼女に会える。そう思うだけで自然と自転車を漕ぐスピードが速くなる。 「心の高鳴りと自転車のスピードはリンクしているのだろうか」 僕は意味不明なことを思いながら目的地に向かっていた。 僕は今まで恋とは無縁の人生を生きてきた。 中学・高校と男子校だった僕は、大学生になった今でも相変わらず女子との接し方が分からずにいた。大学でも、男のみでワイワイするのが何よりも楽しかった。 なので、彼女が欲しいなんて1ミリも考えたことがない。 「彼女なんかいらねーよ!恋とかめんどくさそうだもんな!」というのが僕の口癖だ。 別に強がりではなく本心からこう思っていた。 そんな僕がある女性に一目惚れをした。 そう...僕は今、絶賛恋愛中なのである。  1か月前、僕が駅前を歩いていると小さな本屋さんが目に入った。 田舎の駅前にあるにしては、カフェのようなおしゃれな本屋さんで、入り口側の壁がすべてガラス張りとなっていて、店内の様子がよく見える。 正直、他の店舗と比べると、明らかに浮いていた。 僕は珍しく思って少し外から中の様子を見ていると、ふと一人の女性が目に入った。 その瞬間、ドン!!っと雷に打たれたかのような衝撃が身体中を駆け巡った。 そして僕はその女性から目を離すことが出来なくなってしまっていた。 僕が生まれて初めて恋をした、一目惚れをした瞬間である。 周りの人から見るとその時の僕は、おかしな人だっただろう...。 なぜならガラス張りの店内を瞬きもせず、ずっと眺めていたのだから。 警察に通報されなかっただけでも幸運である。 それはさておき...、僕は初めての体験に動揺していた。 なぜなら今までまともに女子と接したことのない奴が、街中で初めて見た人に恋をしたのだから落ち着けというほうが難しいことである。 僕は頭が真っ白になっていた。 「何も考えられない。ここはまずは落ち着くことが大切だ...。深呼吸しよう」 ふぅと小さく深呼吸をした次の瞬間、僕はもう彼女の目の前に立っていた。 時に人間は極限の状況で思いもがけない行動をするものである。まさに今の僕がそれだ... 「何か言わないと...。」 僕は必死に話しかける言葉を探していた。 次の瞬間、僕の口から条件反射のように言葉が出てきた。 「恋を成就させるための本ありますか?」 終わった。僕は直感的にそう感じていた。 今まで女子と関わったことのない奴でも、今の声のかけ方は0点だとわかっていた。 「えーと...。タイトルを教えていただけましたらお探しできますけど...。」 彼女は困ったように僕の質問に答えてくれた。 「....。ですよねー。すみませんでした。また来ます!」 僕は耳まで真っ赤にしながらその場から逃げるかのように走り出した。 僕の心の中では、生まれて初めての恋愛の終わりを告げるゴングの音が鳴り響いていた。  その日の夜、僕は{一目惚れ 対処方法}など様々なキーワードを駆使して検索を行った。 昼間に発生したイベントが未知の領域の出来事だったため、文明の力に頼ることにしていた。 検索にどれだけの時間をかけたのだろうか、人生で今日以上に調べ物をしたことは無いだろう。 しかし検索結果は「頑張って話しかけましょう!連絡先を聞きましょう!」との記載が大半であった。 「ふざけるな!連絡先を聞けだ!?そんなの自転車の補助輪も外れていない子供に自転車で日本一周しろって言っているようなもんだぞ!」僕は心の中で叫んでいた。 だめだ...。文明は僕の考えのはるか先を進んでやがる...。自分で考えるとするか...。 僕は再度自分で考えることにした。そしてそのまま、夜が更けていった。  次の日、僕はまた本屋さんにいた。 あの女性店員さんは今日もいるかわからないが、居たら連絡先を聞こう! 僕は結局、文明の助言を採用したのだ。 昨日と同じように外から店内を見ていた。 {いた!}僕は彼女を見つけた。 1日経っていたが僕の心臓は彼女を見つけた瞬間、ものすごい速度で脈打ちだした。 「落ち着け...。いける!連絡先を聞くだけ!大丈夫。大丈夫。大丈夫...」 僕は何度も心の中でそう唱え続けていた。 そして心を決め、店内に入った瞬間。 「いらっしゃいませ。あ!よかった、また来てくださって」 なんと彼女の方から話しかけてきたのだ。 僕は状況が理解できず、しばらくその場に立ち尽くしていた。 「昨日お伺いしていただいた本ですが、あの後の数点私の方で探してみました!お客様のご要望通りの本か自信がないのですが...」 彼女は数冊の本を僕に渡してきたのだった。 「昨日の会話を覚えていてくれていた上、あの後に僕のために本を選んでくれていたなんて...」 僕は涙が出そうになっていた。それと同時に僕の恋心がより激しく音を立てて燃え上がるのが分かった。 「ありがとうございます。参考にさせてもらいます。あの...、もしよろしければもっと本についてお話しがしたいので連絡先を教えてくれませんか?」恋心が激しく燃え上がるのを確信した直後、僕は震える声で彼女に連絡先を聞いていた。 「え?」彼女はもともと大きく丸い目をより一層丸くさせて驚いていた。 「あ...。ごめんなさい。迷惑でしたよね。すみません!忘れてください。」 僕は、また彼女を困らせてしまったと、とっさに謝罪の言葉を口から出していた。 しかし彼女の反応は、僕の想像とは少し違っていた。 「謝らないでください!私なんかで良ければ、協力させてください!」 彼女は少し頬を赤らめながら答えてくれた。 「それって...。え?OKってことですか!」僕は驚きとうれしさのあまりその場で小さくガッツポーズをした。 その日、初めて僕のスマートフォンのアドレス帳に女の子の連絡先が登録された。 しかも、一目惚れをした子だ。 なんという奇跡!僕はスキップをしながらその日は家に帰った。 そして僕がその子に初めてメールを送ったのは、言うまでもなくその日から1週間後の事だった...。  初めて連絡するまでは、文面を考えたり、何度も読み直していたため、すごく時間がかかってしまった。しかし彼女からの返事は意外にもすぐに返ってきて、その後は何通もやり取りを続けた。 彼女は僕と同い年であること、本が好きだからあの本屋でアルバイトしていること、好きな食べ物、 趣味についてなど、彼女に関して様々なことを知ることが出来た。 連絡を重ねるごとに、敬語が取れていき、今では冗談を言い合える仲にまでになった。 さらに、彼女のアルバイトが終わった後に二人でカフェや公園に行き、本について色々話せるくらいにまで親密になっていった。 そして彼女に出会って1か月目の今日、僕は彼女に告白するため晴天の中、自転車を走らせていた。  いつも彼女とアルバイト終わりに待ち合わせていた公園についた。 この公園には遊具がブランコと滑り台しかない。 遊具が少ないからか、この公園で遊ぶ子供も少なく、僕にとってのオアシスと呼べる場所だ。 ここのベンチで彼女と話している時間が僕にとっては、何事にも代えがたい大切な時間である。 今日僕はここで彼女に告白する。 今まで何回も二人で会って話していたのに、告白するとなるとやはり緊張してしまうものである。 チラチラ、チラチラ。 いつも以上に腕時計を確認してしまう。 「あー。のどがカラカラだ...。まだ時間あるし、飲み物でも買いに行こうかな」 僕がそんなことを考えていると、向こうから彼女がやってきた。 僕の心臓は、彼女の姿を確認すると、ドクンと激しく音を立てた。 「おう。おつかれ!」 僕は、緊張していることを悟られないように彼女に話しかけた。 「つかれたよー。待った?ごめんね!今日はここでお話ししよっかー」 彼女は、今日のアルバイトであった話、会えなかった時の学校の話、最近ハマっている本の話をしてくれた。 申し訳ないが、僕には彼女の話が全く入ってこなかった。 それどころか、「もしフラれたら今後はこんな風に二人で会うこともできないんじゃないか...」 というようなネガティブな感情が頭の中をぐるぐると回っていた。 そして時間だけが過ぎていった。 「でねー...。あっもうこんな時間真っ暗だよ。そろそろ帰ろっか?」 彼女がそう言った。 俺は驚いて腕時計を確認した。 腕時計は20時を示していた。 「待ち合わせが18時だったからもう二時間話してたのか...。まずいぞ。今言わなないと。」心の中でつぶやいた後、僕は、震える足を両手で叩きながら気合を入れ、彼女に話しかけた。 「あのさ...。今日は大事な話があるんだ。聞いてほしい。回りくどいことは嫌いだから直接言う。一目見た時から好きでした。僕と付き合ってください。」 「....。」 さっきまであんなに元気に話してくれていた彼女が、そのまま少し黙り込んでしまった。 「だめだったのか」と僕が思った時、彼女がゆっくりと口を開けた。 「私の初めてのわがまま聞いてくれる?私が本が好きってのは知ってるよね。もっとロマンチックに言ってほしいな」 僕は、彼女を初めて見た時と同じように、頭の中が真っ白になりうつむいてしまった。 「あれ?告白ってこんな感じなの?ロマンチックってなんだ...」僕は心の中でずっと考えていた。 まだ少し肌寒い初夏の夜だが、僕の背中からは汗が噴き出していた。 そして顔を上げた時、彼女が以前言っていたことを思い出した。 彼女から前に、{告白するときに相手から一度は言ってもらいたいセリフ}を聞いていたのだ。 僕はその言葉を口に出した。 「つ...、月がきれいですね」 僕はチラッと彼女の方を見た、すると彼女は大きな丸い目に涙を浮かべながらこう言った。 「あなたと一緒に見る月だから」
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