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着いたのは公園で、ベンチの空きを見つけそこに並んで座った。
「たっちゃんが……あんなこと言うなんて……」
膝の上に乗せた手は震えていて、それを抑えるようにギュッと握りしめた。そして顔を上げると彼に向いた。
「大智さん、峰永会って、なんですか? 何か知ってるんですか?」
彼もまだ戸惑いの色を滲ませたまま、静かに答えた。
「峰永会は、僕の実家が経営する病院なんだ。さっき彼にも伝えたように、今の理事長は叔父で、その前は父だった」
「病……院……」
そこで樹から昔聞いたことを一つ思い出した。
「そういえば、たっちゃん。小学生の頃に病気でお母さんを亡くしたって……。峰永会の病院に入院していた……とか?」
「それはわからない。けれど、身内を亡くした人が、何らかの理由で病院や医者に、そのやるせなさを向ける場合はあるんだ。子どもだったなら尚更」
だからこその、気持ちの整理がつかない、なのかも知れない。けれど同じように、自分も気持ちの整理がつかない。
黙りこくってしまった自分の手に、大智の温かな手が重なる。暗い表情のまま上を向くと優しい微笑みが目に入った。
「彼は……今日はって言っていた。頭ごなしに話を聞かないつもりではなさそうだ。だから待とう。由依は信じているんだろう?」
彼の言う通りだ。樹はずっと、自分を信じてくれていた。自分だって同じように樹を信じている。改めて、それを気づかせてくれた大智の、懐の深さを思い知る。
大きく頷き真っ直ぐ彼を見つめると、穏やかな瞳が自分を包み込むように向けられていた。
「ありがとうございます、大智さん。たっちゃんを待ちます。きっと……大丈夫です」
「うん。そうだね。……そうだ。一つ、お願いを聞いてくれないかな」
愛おしげに目を細め、彼は笑みを浮かべて言う。不意にそんな表情を見せられ、心臓が音を立てて跳ねているようだった。
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