七章 手繰り寄せられた運命

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「ただいま……」  大智と別れ家に帰る。玄関を開けると、先ほどと同じように静まり帰っていた。  廊下を進み台所に向かうと、テーブルには樹が背を向けて座っていた。項垂れるように背中を丸めて。 「たっちゃん、ただいま」  小さく声を掛けると、その背中が揺れ動いた。それを見ながら樹の向かい側に回る。何もないと思っていたテーブルには、見覚えのあるものが並べられていた。 「ちょっと倒してな。壊してしまったんだ。悪い……」  力なくそう言う視線の先には、仏壇に飾られていた写真立てが置かれていた。ガラスの部分はなく、フレームだけ。そしてその中身がそれとは別に並べられていた。両親が笑顔で並ぶ写真と、二年前大智からもらった名刺だった。 「あいつが……灯希の父親……だよな。これを見つけたその日に、本人が現れるなんてな。……さっきは追い返してごめんな」  立ちっぱなしで見下ろしていた自分に、樹は弱々しい笑みを向ける。見たこともないそんな樹の姿に、表情を強張らせながら首を振る。樹は自虐的にも見える笑みを口元だけで浮かべると続けた。 「運命の悪戯って、こういうのを言うんだな。今は……何があったか話せる気分にならないけど。いずれ話すから」 「うん……。ごめんね、私こそ。大智さんのこと、黙ってて。また会えるなんて思ってなくて……」 「そっか。会えて良かったな。俺のことは気にしなくていいからな。灯希に父親できたんだ。喜ばしいことじゃないか」  無理をして笑顔を作るその姿に胸が痛む。樹に過去、何があったのか想像すらできない。正解の返事など浮かぶはずもなく「ありがとう……」と言うだけで精一杯だった。  一瞬の静寂は、聞こえてきた元気な足音にかき消される。  台所に顔を出した灯希は「マッマッ‼︎」と嬉しそうに声を上げると、自分の元に走り寄ってきた。しゃがみこみ手を広げると、笑顔の灯希は自分の胸に飛び込んできた。
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